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絵本らしくない大げさなタイトルである。タイトルにひかれて手にとると、これがなんと一匹の蚊と少年の攻防戦なのだ。 たった一匹の蚊のために寝不足になった経験はだれにでもある。なーんだばかばかしいと思っても、もうそのときは、先を読まずにはいられなくなる。 さあ、この少年はどうやって敵を撃退するのか。パチンと一発、うまく仕とめることができるだろうか? ちからいっぱい ひっぱたく! さされたあとでは おそすぎる。 こんどこそはと またたたく! あいつはとっくに にげたあと。 じぶんでじぶんを ひっぱたく! そのうちまたもや さされてる。 あいつはむきずで わらってる。 あの『よい子への道』の、おかべりかの訳は、盛り上がってくると七五調になる。少年に同情しつつも、読者は高みの見物の気楽さで、「やれやれーっ!」という気分になり、ついには蚊のほうをヒイキしている自分に気づく。 これはめずらしく、フランス生まれの絵本である。大胆なタッチで、しかし、けっこう細かいところまで気配りのきいた絵と構成には、子供たちをくり返し楽しませるだけの力がある、と思う。 ただし、帯の「子どもたちの日常を、鋭い視線でユーモラスに描く」という惹句はマト外れである。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/08023
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