明治・大正・昭和詩歌選

大岡信編

講談社 1987


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 「動物園は楽しい。何度行っても、そのたびに、それまで気づかなかった動物に会える」といった作家がいた。
 大岡信の編集した『明治・大正・昭和詩歌選』は、いってみれば詩歌の小さくて大きな動物園といった感じの楽しい本だ。最初から最後まで全部読んでも、そのうちまたふらっと寄ってみたくなる、そして行ってみるといつも新しい発見がある、そのうち恋人を連れて一巡してみたくなる、そんな本だ。
 大岡信はバランス感覚にすぐれ、かつ博識な編者だと思う。たとえば詩のほうでは、味わい深いものばかりを拾い上げながら、上田敏、土井晩翠、与謝野晶子、萩原朔太郎などの古典的な詩人から清岡卓行、山本太郎、川崎洋などの現代詩人のものまで網羅している。 また短歌でも「入日入日まつ赤な入日何か言へ一言言ひて落ちもゆけかし」(今井邦子)や、「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」(寺山修司)まで、俳句でも「花衣ぬぐやまつはる紐いろ」(杉田久女)や「水枕ガバリと寒い海がある」(西東三鬼)まで、ちゃんと射程に入っている。
 それぞれの詩歌についての解説がないのもいいし、難しい漢字にすべてルビがふってあるのもうれしい。少年少女のための一冊ではあるが、大人も十分に楽しめる。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/12/06