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シャルル・ジュリエの『めざめの時』(菊池有子訳、大栄出版・1600円)、これは映画だけでなく、ぜひ小説も読んでほしい。 戦後間もなくの南仏プロバンスの士官学校。上級生がひとり、またひとりとインドシナ戦争にかりだされて、死体となってもどってくる。その恐怖とやりきれなさ。士官学校のなかで横行する、一部の上級生による悪夢にも似た暴力。 そんななかで、15歳の少年はあこがれの士官に認められ、ボクシングを教わることになる。そしてはじめての恋。だが相手は、尊敬するその士官の妻だった――愛、嫉妬(しっと)、迷い、裏切り、決意……。 それをきっかけに、孤独でおとなしかった少年は悩み、苦しみながら、まっしぐらに成長していく。上級生への復讐(ふくしゅう)、悪らつな軍曹への反逆――そして、暗い独房へ。「いつか恐れを乗り越えなければ、勇気を出さなければ……。それが墓場であろうと、再出発であろうとね」 これはただの恋愛小説ではない。みじんのゆるみもない、悲壮なまでに激しく厳しい成長の物語だ。(金原 瑞人)
朝日新聞ヤングアダルト招待席
テキストファイル化 内藤文子
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