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![]() ![]() ![]() 『みどりのトンネルの秘密』に入ろう。感動的な『アナグマと暮した少年』の著者エッカートのファン夕ジーとは--双子の姉弟ラ-ラとバーナビ-はいとこのウィリアムと、フロリダ半島南部のエバ-グレーズ湿地帯をボートで探検にいく。水路を進むうち三人は掲色の大きなフクロウに導かれてマングローブの木のおい茂る暗い緑のトンネルに入りこむ。トンネルをぬけるとそこは、水面に影が映らず緑の太陽が輝く緑の世界だった。 暗い緑のトンネルは現実世界と非現実世界をつなぐ通路になっているが、このマングローブのトンネルは目に見えるように描き出され、アナグマの作品の現実感あふれる描写を思わせる。ファンタジ-の優れた通路といわれる『ライオンと魔女』の衣裳だんすを思い出した。 本書が「ナルニア国物語」の作者C・S・ルイスに捧げられたものであるところからか、本書には通路ばかりでなく「ナルニア国物語」、特に『ライオンと魔女』に似ている所が多い。まずファン夕ジーの型であるが、非現実世界を描いたハイファンタジーでその中でも人間の子どもたちが非現実世界を訪れる型をとっている。さて非現実世界を訪れる子どもたちだが、ただ訪れるのではなく非現実世界の予言と探い関わりがある。ナルニアには四人の子どもたちが現われた時白い魔女の支配が終わるという予言があり、緑の世界には双子といとこの三人がソーキン王を打ち負かすという予言がある。いずれの世界でも予言は実現し子どもたちがその世界を治めるようになる。時の問題であるが、ナルニアでも緑の世界でも子どもたちは立派な王や王女となるが現実世界へ戻ると時間は全くといっていいほど動いていない。またラーラたち三人が小人ビードルの家でお茶をご馳走になる個所は、ルーシィがフォーンの家でご馳走になる場面と重なってくる。 以上のように本書は「ナルニア国物語」と似ているが、一番大きな違いは主題である。『ライオンと魔女』はキリスト復活になぞらえたアスランの蘇りという宗教的主題であるが、本書は宗教的色彩はなく人間の内面の悪という現代的主題である。映像のない世界に暮すソーキン王はラーラのコンパクトの鏡をのぞきこみ、そこに初めて悪の姿を見て恐ろしさのあまり死んでしまう。 ナルニアと違って本書にはアメリ力的なものが多く見られる。緑の世界への第ニの通路の回転木戸。これには住民が逃げ出せないように高圧電流まで流れている。武器に使われるパチンコやコンパクト、そして税金のとりたてのエピソードなどである。現代的な小道具を使っている点にアメリ力的ファンタジーの「オズ」や「エルマー」の世界に通じるものが感じられる。 本書にはひとひねりしてある意外性があって楽しいが、これも本書の特徴の一つであろう。第二の通路の存在や、予言の三人にウィリアムが諺当しない点、ソーキン王を倒す武器がパチンコではない点、地下の国卜ワイランディアの存在などである。 最後に緑の世界そのものに目を向けよう。緑の世界にはおしゃべりな黄色い鳥ボグルや王位に仕える人ビードルやトワイランディアの魔女マグナ・モッダーやされこうべ王ソーキンなど印象的な住民もいるが、セントールやドワーフなど伝承の生きものは今ひとつこの世界に根ついていない。また地図はあるのだが、バータンシアとトワイランディア以外の領地は存在感が薄い。このあたりはファンタジ-として気にかかるところである。(森恵子)
図書新聞1987/10/24
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