南の島のティオ

池澤夏樹

楡出版

           
         
         
         
         
         
         
     
 見返しに地図が描かれている本というのは、なにやらこちらの想像力をかきたてるところがある。それが島の地図だったりすると、ますます期待が高まってしまう。『南の島のティオ』(池澤夏樹著、楡出版・1400円)も、予感どおりワクワクさせてくれる物語だった。
 舞台は、サンゴ礁に囲まれたのどかな南の島。戦争のころは日本の軍隊がいたこともあり、今も日本人が訪れるのは珍しくないようだ。外国から品物が入ってきて、少しずつだけど人々の生活を変えてきている。昔ながらのカヌーに代わってモーターボートが入江を走ったり、道路の舗装工事をみんな珍しがって見物していたり。
 この島で起きる、不思議だったり愉快だったりジーンときたりするできごとを、語ってくれるのはティオ少年。
 彼の家はホテルだから、仕事や観光でさまざまなお客が訪れる。受け取った人がその景色をどうしても見たくなるという、魔法の絵はがきを作る営業マン、ティオたちが見たこともない遠くの町や氷山の浮かぶ寒い海の光景を、花火で空いっぱいに描く男。
 島の住人たも、おもしろい。ぼろを着てふらふら歩きまわるカマイ婆は、予言ができるし天の者を呼び出せる。まだまだ不思議なものが残っている南の島。一度も行ったことがないのに、なつかしい気分になってしまうのは、なぜだろう。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1992/01/26

テキストファイル化 妹尾良子