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〃シュレックの両親はとてもみにくい人たちでしたが、息子のシュレックはもっとみにくいのでした……野原の鳥やけものはみんな逃げ出し、逃げなかったへビは死にました……〃 という、とても魅力的な書き出しではじまるこの絵本-『みにくいシュレック』は、才人 ウィリアム・スタイグ氏の世紀の大傑作です。 そうして年頃になったシュレックは、にっこり笑った両親にけっとばされて旅に出ます。 ちゃあんとそういう絵がついているのよ。でもってね、占いババにあんたは世界で一番みにくいお姫様と結婚するよ、といわれて大喜びで探しにいくの。 精神的に自立して成熟し、連れあいをみつける、というのが成長のひとつのゴールだものねそうしてシュレックは、本来なら〃みにくい〃ということで、自分をバカにしたりいじめたりするだろう世間の人々を、それをうわまわるエネルギーではね返していくんです。 でもってですね、この絵本が出たときに私は大喜びで、一九九一年のべスト・ワンだ! とはしゃいでたんですが、なんと……図書館の推薦からは、はずされるわ、出版社のひとからは「全然売れてないのよ、まだ初刷がはけないの……」といわれるわで……。 おいおいおい……それはないよね! だって全国に文庫をやってる人、何人いる? 公共図書館がいくつある? 学校図書館がいくつあるの? 中・高の図書館だって入れるべきです。〃子どもたちに良い本を……〃っていうんなら、買ってください、こういう本を! 〃一家に一冊 『みにくいシュレック』 元気が出ますゾ!〃 ってキャッチコピーはどうかしら? だってホントに元気がでるわよ。 こういう、いちばん秀れた本をわざわざはずしておいて、いい本を……もなにもないと思うんですがねえ。 まあねえ、確かにちゃんと宣伝できていない出版社にだって、モンダイがないとはいえないし(だって、え? こんな本のこと、はじめてきいたわ……っていう人、結構いるでしょ?)本屋さんでもみたことないわよっていわれれば、それもごもっとも、だし、でもだからって、いまの本屋さんの状況を考えたら、本屋さんも責められないしね。誰だってお金をかせいで生きていかなきゃいけないんだから-。それに本屋さんだって売れる本なら置くでしょう。 でもなんていうか、こういう本って、売れないのよね、日本て-。 偽善的で、読んでいる人間にナイフを突きつけない……それどころか、他力本願、アンタは悪くないっていってくれる本は売れるんだけどなあ…。 外国の本で、いい本なんだけど日本じゃ売れませんから……っていう理由で翻訳されてない絵本て、いーっぱいあるんだよ。で、確かに売れないだろうから出してもらえなくても文句はいえない……別に儲からなくてもいいけど、せめて次の本を出せるくらいは売れないと、いくら良心的な出版社でも、やっていけなくなっちゃうもんね。 だから、いい本がもっと出るようになるためには、読者がいいものをちゃんと見ぬく眼を持っこと-これしかないと思うんだ。 といっても、自分はいいものがわかるんだ、って心ひそかに得意になってる、なーんてのはダメですよ。本当にそれができる人はね、自慢したりしないものですからね。それに、初めから自慢するようなことじゃないんだしさ。 ウイリアム・スタイグの絵なんて、確かに自我は強いけど(だからいい絵なんだけど)すっごく先練されてて、どっちかといったら一番日本人好みだと思うんですがねえ……。 とにかく〃子どもたちに良い本を〃-とおっしゃるのでしたら、ぜひぜひこの『みにくいシュレック』をお願いします。(赤木かん子)
『絵本・子どもの本 総解説』(第二版 自由国民社 1997/01/20)
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