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「満月の夜、古池で…」と不思議な言葉が聞こえてきた。辺りには人影はなく、木の梢にカラスが二羽いるだけ。透はまさかカラスが言葉を話すなんてと思いながらも、この言葉の意味が気にかかる。ところがその言葉を聞いた透のまわりで、危険な事が起こり始める。元カラスだったというおじいさんは、カラスが人間になるという不思議な水の湧く池があることを教えてくれたが、元カラスの黒い服のおじさんたちの集団の「黒烏親切会」に殺されてしまい、透はとうとうカラスにされてしまう。「黒烏親切会」の会長がカラスを操り、この社会の支配者になることを企てている事に気づいた透は、人間に戻るため、会長の正体を暴くために、下水道の中で知り合ったワニ、ニシキヘビ、イグアナなどの動物たちの力を借りて古池を探す冒険を続ける。 もし人間が鳥になってあの空を飛べたらなど、人間以外のものに生まれたらどうなのかと思う時がある。子どもの頃には、特にいろんな物に変わりたいと思う。猫や小鳥だってもしかしたら人間になれたらと思っているかもしれない。この作品でも人間の都合でペットにされたり、動物園で飼われている動物たちは、人間になることで自由で楽しい生活があると信じている。作者は、ふと気づくと今の世界と違う世界が存在していて、その世界の支配者の悪事や陰謀と対決し、やがて元の世界に戻ってくるというパターンの冒険作品を通して、子どもたちに日常と非日常の中を行き来させ、自分を客観的に意識したり周りを見ていく力を気づかせているように思う。奇想天外な発想で子どもたちが生き生きと悪と闘っていく姿は、今の子どもたちに痛快な話として受け入れられるだろう。(山田 千都留)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28
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