ムーミン谷の十一月

トーベ・ヤンソン作
鈴木徹郎訳 講談社

           
         
         
         
         
         
         
    
 今回ご紹介するのは、私の大好きなムーミン・シリーズの最終巻にあたる一冊です。フィンランドの作家・画家トーベ・ヤンソンの心から生まれた、ちょっぴりカバに似たムーミン一家や、孤独で自由な旅人スナフキン、小さい玉葱頭の辛辣なミーなどのキャラクタは、和製アニメで知る方も多いでしょう。でも原作のすばらしさ、特にこの最終巻の持つ雰囲気は、アニメではとても表現できないものだと思われます。
 十一月は、フィンランドでは終わりであり始まりである「死の月」。ムーミン谷も寂寞とした気配で、かんじんのムーミン一家と養女のミーは、どこかの島へ旅に出たまま不在です。十二月になれば、冬眠のため戻ってくるのですが、今、ムーミン屋敷には、彼らの暖かい思い出が残っているだけ。そこに、ムーミン谷のさまざまな住人たちが三々五々集まってきます。五つの音色を探し求めるスナフキン、自宅を掃除中に屋根から落ちそうになり、掃除恐怖症となってしまったフィリフヨンカ、小さく一人ぼっちで、空想の物語を肥大化させていくホムサ、百歳を越えて、自分の名前も忘れるほどの年寄りながら、はっきりと自己主張するスクルッタじいさん、ヨットで海に出る話をしながら、実際には出航したことのないヘムレンさん…。
 こうした存在たちが、おたがいに何となくぎくしゃくしながらも、共に暮らしていきます。みんな悩みを持ちながらも、確固とした個性の持ち主(外貌もそれぞれユニークです)。特に一致団結するわけではなくバラバラなのに、さりげなくみんなの問題は解決されます。自分をはっきり表現し、「しないではいられないこと」をやること、また無限の自由への解放が、他者につながっていく、という考えに、広い意味での<教育>が提示されているようにも思えます。
 全集は文庫版でも読めます。(きどのりこ
『こころの友』1999.11