ミュータント・メッセージ

M・モーガン=作/小沢瑞恵=訳/角川書店

あの夏の鳳仙花

崔淑烈=作/和田穹男訳/めるくまーる

           
         
         
         
         
         
         
         
         
     
 ュータント・メッセージ』はオーストラリアの先住民族アボリジニの一部族と一緒に旅をした、一人のアメリカ人女性の記録だ。ミュータント=突然変異体とは、この本では、文明人を意味しているのだ。
 アメリカで、ヘルスワーカーとして、そこそこのキャリア・ウーマンだった彼女は、招きを受けてオーストラリアへ赴く。五十歳のある日のことだ。
 仕事をしながらアボリジニの青年たちを支援するプロジェクトに関わっていた彼女のもとに、一本の電話がかかってくる。大陸の向こうはしに住む「真実の人」族からの招待だった。
 自分の仕事が評価されての招待だろうと、彼女ははりきって、新調のドレスを着てでかけていく。
 待ち受けていたのは、一切の所持品や衣類を焚き火にくべられ、代わりに与えられたぼろ布一枚をまとっての、彼らのと一緒の旅だった。目的も行く先も知らされないまま、広大な灼熱の砂漠を徒歩で横断する旅が始まる。
 にわかには信じがたい話だし、実際作り話と受け取られてもかまわないと著者は言う。
 しかし、「真実の人」族と一緒の、目を見張るような毎日の出来事を読んでいくうちに、読者である私たちも、今までの価値観が根底からくつがえされていく。
 超能力としか言いようのない彼らの治癒力やテレパシーも、もしかしたら太古の昔、人類に等しく与えられた力だったのかもしれない。文明人が失ってしまった、大地と共存して生きる知恵や力を、彼らは五万年も守り通してきたのだ。旅が終わりに近づくにつれ、しだいにこの旅の目的と、すべてのミュータントに伝えるべきメッセージとが明らかにされる。胸にしみ入るメッセージだ。
 真実の記録というのは、なまじな小説よりも人の心を打つ。
 戦後五十年の区切りに出版されたの夏の鳳仙花』。第二次大戦下の、北朝鮮の平壌市で少女時代を過ごした作者の自伝だ。まさに庭の片隅に咲く鳳仙花のようにつつましやかな本だが、訴えるものは大きい。
 戦争が終わって、朝鮮半島を占領していた日本軍が去ると、束の間の自由への望みを踏みにじって、ロシア軍がやってくる。
 幼い弟を連れての、南への必死の逃亡。世界中のいたる所で、いまだに繰り返されている悲劇だ。日本軍の残虐ぶりも、ロシア軍による、民衆を共産主義に洗脳していく狂気じみた騒々しさも、共に愚かしく悲しい。 (末吉暁子)
MOE1995/11

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