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「お姫様」と「魔法」の物語は、昔も今も子どもの喜ぶ二大テーマ。かく言う私もそんなお話が大好きなのだが、この分野の本はまたゴマンと出ているだけに玉石混淆。タイトルにだまされて、ホゾを噛んだことがどれだけあったことか。 しかし、ネズビットのこの『魔法!魔法!魔法!』は、大人の読者も裏切らない。ぬけぬけと人を食っていてシニカルでナンセンス。それでいて、なかなかロマンチック。 れっきとした一国の王を職業紹介所で募集しているので、キングという苗字の男が応募してみると、すぐ採用になる。それもそのはず、その国の王は、代々ドラゴンに食われる運命にあった、という皮肉な話『キング、募集中』。一旗あげようと旅に出た気のいい青年が、願い事の叶うりんごを手に入れて故郷に帰ってみれば、浦島太郎よろしく老人になっている。なぜなら、りんごが願い事を叶えてくれるたびに、本人は十歳ずつ年をとっていたからという、なにやら実人生を暗示するような話『魔法のリンゴと白い馬』やら、どれも面白おかしく、奥深い。 ネズビットといえば『砂の妖精』でよく知られるように、日常生活に魔法を持ち込んだ、エブリデイマジックといわれるファンタジーの大きな流れを作った人だ。一九二四年に亡くなるまで、リアリズム、ファンタジー両ジャンルに膨大な量の作品を残したという。 『夜八時を過ぎたら…』の作者エイキンは、偶然にもネズビットの亡くなった年に生まれた英国の女流作家だが、こちらも多作。長編短編、冒険物語、ナンセンスファンタジーと多岐にわたるジャンルをバリバリ書き続けている頼もしい人。 夜八時前には子どもは寝なければいけないという法律がある町トロイ。そもそもこんな法律ができたのは、大昔ドラゴンが夜になると飛んできて子どもたちをさらっていったからなのだが、今ではドラゴンなんていやしない。それでも法律だけが生きていて、破った子どもを捕まえる事に陰惨な喜びを感じる監視屋がいる。なんだかどこかの国の学校の状況にも似ているが、こちらの物語は美しくも不思議な結末を迎える表題作。 また、いつまでも泣き止まない赤ちゃんにうんざりした両親が、玉ネギ売りからある数字を買う。その数字を電話で回すと、赤ちゃんはたちまち眠りに落ち今度はどんな事をしても目覚めないというコワーイ話「ルーレイ・ルーラ」など八編。ホラーとビターの味がお好みの向きには、こちらがおすすめかもしれない。(末吉暁子)
MOE1996/05
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