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ごらんよ ここにいるこのこを えへえー もじゃもじゃぺーターだー りょうてのつめは 1ねんもきらせないから のびほうだい かみにもくしを 入れさせない リズミカルなことばと、素朴な絵、「もじゃもじゃぺー夕ー」は、一八四四年、今から百五十年以上も前に、医者のハインリッヒ・ホフマンが、三歳半になる息子のクリスマスプレゼントに描いた手作り絵本です。 ホフマン博士は、日頃から、医者として治療にあたるなか、病気の子どもにお話を語って聞かせ、即興的に絵を描いてやったりしていました。 クリスマスの一週間前、本屋に息子のための絵本を探しにいきますが、これと いった絵本が見つからず、それではと一冊のノートを買い求め、日頃から子どもたちに語って聞かせていたお話を描いたのがこの絵本。 早速、出版社の目にとまり、出版の話が持ち上がります。出版にあたって、ホフマン博士曰く、「子どもの本というものは、外見は堅牢でなくてはならないが、本そのものは必ずしも堅牢でなくてもよい」 子どもの本は読まれるためばかりでなく、破かれるためにある、それも子どもの成長過程の現れだというのです。 このことば、子どもと本の関係を深く理解した人ならではのもの。当時の子どもの本は、ほとんどが教科書や宗教書、しつけの本。娯楽はなかった時代ですから、子どもにとってはちっとも面白くない。中でもしつけの本は、「爪は短く切りなさい!」「髪はとかしていつもきれいに!」といった調子ですから、それを逆手にとって、これでもかと『悪い子』を描いたこの絵本が、当時の子ども達にどれほど喜んで迎えられたことか。 もとのドイツの出版社だけでも、六百回以上、版を重ね、本国以外の国々でも翻訳され、今にいたっていることでもわかります。 「もじゃもじゃぺーター」 で、わが娘が一番好きなのは、指しゃぶりをして仕立て屋さんにチョキンと親指をちょん切られるコンラートと、スープを飲まない宣言をして、日ごとにやせ細り、五日目には墓の中というカスパーのお話。さて、みなさんはいかがでしょう?(竹迫祐子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本、昔も、今も・・・、」1997/7,8
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