桃尻語訳 枕草子

橋本治

河出書房新社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『桃尻娘』って知ってる?
 高校生の女の子がホンネをベラベラしゃべりまくる一人称小説で、10年ほど前に評判になった(現在講談社文庫に収録)。その同じ作者の橋本治が今度出したのが『桃尻語訳枕草子』(河出書房新社)。
つまり、かの『枕草子』の思いきった現代語訳版。あの有名な「春は曙(あけぼの)」が「春って曙よ!」に、「いとをかし」が「すっごく素敵!」になるわけ。加えて、清少納言はキャリアウーマンの第一号だったの、平安時代はメンズ・ノンノの時代だったの、思わず目をむく「註」がいっぱい。
マジでノートを取るも勝手、笑いとばすも勝手、なのです。(横川寿美子

読売新聞1987/06




 今回は「絶対に図書館に置いてッ!」と声を大にしていいたい古典関係の本を二点。 まずは橋本治の『桃尻語訳・枕草子・上』 「春って曙よ!」ではじまる第一段は「昼になってさ、あったかくダレてけばさ、火鉢の火だって白い灰ばかりになって、ダサイのッ!」で終わる。原文から逸脱することなく、それでいて心憎いほどヴィヴィッドで、そのうえ[註]がすごい。とくに、皇后定子と兄伊周(これちか)、叔父道長などの人物関係や、当時の習慣、服装など、そんじょそこらの古文の参考書より、はるかに詳しくわかりやすく面白い。解説で、清少納言の価値観を”ミーハー””センチメンタル””小姑根性”といいきるところもスルドイ。 つぎは『田辺聖子の小倉百人一首』(角川書店・正続各一九〇〇円)これは百首の歌に、それぞれエッセイ風の解説をつけたもので、ときにロマンチック、ときに辛辣(しんらつ)、ときにユーモラスと、エッセイストとしての田辺聖子の魅力が凝縮されている。「わすれじの行末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな」という歌の解説は「これは烈しい恋歌である」とはじまり、作者である儀同三司母(ぎどうさんしの はは)の薄幸な生涯を追いつつ、この凛然(りんぜん)たる恋の情熱にひそむ不安感までも指摘しているところなど、やはりスルドイ。 ちなみに儀同三司とは伊周のこと。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/10/27