もりのこびとたち


エルサ・ベスコフ作
おおつかゆうぞう訳/福音館書店刊

           
         
         
         
         
         
         
    

 徳間でも三冊ほど作品を刊行しているスウェーデンの絵本作家エルサ・ベスコフの絵本『もりのこびとたち』をご紹介しましょう。
 実は十月の初頭、スウェーデンの森の中を歩く機会がありました。「ベスコフを理解したければ、スウェーデンの森を歩かなくちゃ」と、連れていってくれたむこうの編集者いわく、「このあたりは、ベスコフが住んでいたところに近いから、まさにあの絵本の舞台になったと言ってもいいようなところなのよ。『もりのこびとたち』の中に出てくるものがいっぱい見られるわよ」
 ストックホルムの中心から地下鉄で三十分ぐらいのところにある住宅地からすぐのところに、その森はありました。わくわくどきどきしながら二十分も歩くと、ベスコフの絵そのままの風景があらわれました。針葉樹や樺の木立の間の地面には、水苔を始め色々な苔がびっしりとはえ、日本とは違って藪がありません。起伏もほとんどないので、子どもでも十分に歩けます。その上、ベスコフの絵によくあるように、ブルーベリーやこけももがたわわに実っているではありませんか。ブルーベリーはその場で口に放り込み、コケモモはあとでジャムやソースにするために袋にいれます。一緒に行った翻訳者の長下日々さんは歩き始めたばかりの二歳の男の子S君連れ。S君もよちよちと歩きながら、ブルーベリーを口いっぱいにほおばったり、キノコを見つけては摘んでお母さんに持っていったり。
 日本ではブルーベリー(クロマメの木)やコケモモは、高山にいかないと見られないし、ましてキノコ狩りというと、山をがしがしと歩かないと出来ないハードなレジャーなのですが、ここなら小さい子でも無理がありません。「みんなこんなに小さい頃から森に連れてくるの?」と聞くと、「散歩にはしょっちゅう来るの。歩きやすいし気持ちいいし、おいしいものも見つかるしね」との答え。どんどん歩いていると、この絵本に出てくる子どもたちがかぶっている帽子が眼にとまりました。緑の苔の中でひときわ美しい色。そう、べニテングタケです。毒キノコなのですが、森の中にぽつんと生えている姿は、本当にこびとが帽子をかぶっているようでした。
 ベスコフの魅力は、何と言ってもその絵にあります(お話も面白いのはもちろんですが)。自然と共に生き、四季折々の姿を知り尽くし、その恵みを受け感謝する心が、そのまま絵になっていると言ってもいいでしょう。自然を再現しながらも科学的になりすぎず、子どもを愛らしく描きながらも甘くなりすぎず、常に最上のバランスを持って描かれたその世界は、何度見ても見飽きることがありません。
 帰国してから、東京でこの絵本を開いてみました。すると、あの、ちょっと湿り気のある森のにおいがしてくるではありませんか。嬉しいことに各社からベスコフの絵本が次々刊行されています。ベスコフファンとしては、全部そろえかようと思っています。(米田佳代子

徳間書店子どもの本だより2001.11/12
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