もちろん返事をまってます

ガリラ・ロンフェデル・アミット/作 母袋夏生/訳 岩崎書店

           
         
         
         
         
         
         
    
 「こんにちは、まだ会ったことのないお友だちさん。わたしの名はノア。エルサレムの小学校五年生です」 今回ご紹介するイスラエルの作家アミットの作品はこんなふうにはじまり、ラストを除いて全部が、やりとりされる手紙の形になっています。
 女の子ノアの学校では、先生のすすめで生徒たちが、養護学校の子どもたちと文通を始めました。ノアの文通相手は、脳性マヒで車イスの生活をしている同い年のドウディ少年。明るく気性がまっすぐな少女ノアの、弾むような近況
報告の手紙は、感じやすく繊細な少年のドウディを喜ばせます。そして、自分の持つハンディと家族の大変さ、それを感じることの辛さを、つつみかくさず素直にノアに話していきます。
 ノアはさっそくドウディを家に招こうとしますが、彼は「ぼくにあうとぎょっとすると思う」とことわります。文通の中で、ノアは自分が彼を傷つけたのではないかと悩みますが、同情からはほんとうの友情は生まれないと気づき、その気持ちをまたありのまま、手紙に表現します。こうしたまっすぐなノアの手紙に励まされ、作家になる夢もふくらませるドウディ。でも会うことをまだ躊躇し、拒んでいる彼に、ノアは「それでどうなるかしら? わたしの手紙はわざとらしくなるはずです。ひとこと書くたびに、ドゥディを傷つけやしないかおこらせやしないかって十回も迷うから。それでいいの?」と問いかけ、ついに二人はほんとうに出会うのでした。
 相手を傷つけるのを怖れるあまり、コミュニケーションができない、知らず知らずのうちに相手を、弱者として捉えている……そうした現代の私たちの歪みを、この物語は軽やかにただし、人と人が対等に出会うことのすばらしさを教えてくれます。イスラエルで人気の作品。ヘブライ語からの訳です。(きどのりこ
『こころの友』2000.05