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オーストラリアでは、原住民アボリジナルがドリームタイムと呼ぶ創世神話の時代には、すべてが人間だった。夢がさめていく過程で、黒い肌の人間が月になり、動物、鳥、魚、爬虫類、太陽、星になった人間もいた。このアボリジナルの民族伝承をもとに独自のオーストラリアのファンタジーを書いているのが、パトリシア・ライトソンである。わが国でも、『星に叫ぶ岩ナルガン』「ウィラン・サーガ」『ミセス・タッカーと小人ニムビン』でおなじみだ。 「ミセス・タッカー」は、山の中の一軒家で年老いた女性が大地の精霊とやりあう物語で、児童文学ではあるが子どもは登場しない。本書『ムーン・ダークの戦い』にも子どもは登場しない。でてくるのは、動物たちと月であるキーティングだ。 「ムーン・ダーク」とは、月が隠れたり、月の出が遅かったりするために生じる闇のことで、物語はムーン・ダークの夜に展開する。犬のブルーは漁師の主人と人里はなれた土地に住んでいる。この土地は川岸や沼地や尾根があり、野生動物の小さなかくれ家となっている。ところが、川向こうの森が開墾されたため、餌をもとめ大コウモリが集団でこの土地にやってくる。大コウモリに食料を奪われパニックにおちいった野ネズミたちは、バンディクートの食料である地中の虫にまで手を出し、野ネズミとバンディクートの間にバンディクート戦争が起きる。また、畑を荒らされた人間は毒入りの餌をしかける。 この危機的状態を、月になった黒い肌の人間、キーティングが救う。キーティングは大コウモリを他の森へ移すため、動物たち全員の協力を求める。大コウモリを入れて運ぶタケを三本、野ネズミたちがとってくること、他の動物たちは野ネズミに食料を提供すること、そしてムーン・ダーク最後の夜、キーティングが大コウモリを運ぶのをよそ者の人間に見られないように、前の二晩、人間を眠らせないでおくことだ。 月光に輝き霧の中で歌うキーティングも印象的だが、それ以上に人間を眠らせない作戦は傑作だ。ブルーが挑戦のおたけびをあげ、カエルが大合唱をし、ポッサムが植木鉢をころげ落とし、ゴアナが鶏舎に急襲をかけ、ワラビーが尻尾をトタンの小屋にたたきつける。ワラビー、ポッサムをはじめ登場するオーストラリア特有の動植物が、精巧なさし絵で見られるのも魅力だ。 オーストラリアの神秘を垣間見せてくれるとともに、環境破壊にも警鐘を鳴らす一冊である。 (森恵子)
図書新聞 1992年2月15日
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