ムンジャクンジュは毛虫じやない

岡田淳著

偕成社(偕成社文庫)

           
         
         
         
         
         
         
     
 根っからの職人肌である那須正幹と対照的なのが、この岡田淳です。
 最初『ムンジャクンジュは毛虫じゃない」でデビューした時から、岡田淳はずぶの素人でした。
 でも、この本に初めてぶつかったときの、あのめくるめくような喜びと興奮は、忘れることができません。
 そう、さとうさとるの〃コロボックル〃シリ-ズ、を初めて読んだ時とそっくりだったね。
 確かに素人さんよ。
 でも、腕に覚えのある手練の職人さんが作った、まさに職人芸、という、ほれぼれするような化粧箱もいいけど、素人でも好きで器用な人が、愛情こめてていねいに作ったそういう細工物のなかにもいいのがあるでしょ。
 もちろん愛情こめてていねいに作ったからといって、みんながみんな、味のあるものを作れる、というわけじゃないけどさ。
 そういう意味じゃ、素人のなかのプロだよね。
 岡田淳というのはそういう作家だった、と私は思ってます。
 でね、彼が愛して、ていねいに心をこめて書いてる相手ってね……子どもたちなの。
 彼の物語を読む子どもは、ひしひしと、自分は愛されてるんだ、というのを感じとるだろうと思います。
 ちっとも悲しい話でもなんでもないのに、この人は僕のことをわかってくれるんだ……といって涙を浮かべて彼の本を抱きしめた子どもたちを私は何人も知ってるよ。
 彼の物語には特別なヒーロー、ヒロインは出てきません。どこにでもいる、それほど自我も自己主張も強くなく、大人、つまリ先生や親がちょっと強く出れば、たちまちそうなのかな、と不安になるような、要するに、いまの日本のごくごくあリふれた子どもたちしか出てこないのです。
 たとえば『ムンジャクンジュ……』では、クラスの一人の子が空中に浮く黒い毛虫のような生き物を見つけ、またその生き物が近くの山のてっぺんに生える珍しい花しか食べないことから、飼うのが大変でしょ、一人、また一人と協力者が増えていき、最後にはクラス全員がそのことで一つになリ、みんなが満ち足リた幸福感を感じるまでを描いてるの。
 調べてもどこの図鑑にも出ていない……こいつはいったいなんなの?という興味と、今日一本なら次の日は二本、その次は四本、食料として花が必要なんだという仕掛けで、子どもたちは心配と興奮でわくわくしながら駆けずリまわリ、気がつくとみんなの気持ちが一つになっていた、というわけ。
 いま一番必要なのはこれで、一番手に入らないのもこれなんだよね。
 なんてよく子どもを知ってるんだろう!という驚嘆と、なんてよくいまの学校と子どもの実態を知ってるんだろう!という驚き……。
 たいていの大人はさ、子どもの本書いてる人でも、学校にいる子どもがどんだけみじめて幸福じゃないか知らないもの。
 この人はどうして、知ってるんだろう!?
 この本読んで泣く子がいてもおかしくない。だってみんな、こうなりたいのよ。でもどうやったらそうなるのかわかんないんだものね。
 という仕組みはデビュー作から出来上がっておリ、そうじゃないのもあるけど、ま、ほとんどこのシステムで岡田淳の本は出来上がっています。
 別に殺されるわけじゃないんだけど、真綿でくるんで締められるようなあの閉塞感を打ち壊すには一人でやっても意味がない。
『ようこそ、おまけの時間に』は一人の男の子がはっと気がつくと、みんな緑のツタにからまれて眠っているところから始まります。
 自分だけ目がざめていてもつまんない……自分を解放することが必要なんだ、なんてことを考えたわけじゃなく、なにげなく動いたらツタが折れたおもしろくなってバキバキやって自由になって、ついでに親友のツタもバキバキはがしたらそいつも目がさめる……おもしろいから学校中の子のツタをはずして、みんなで校庭のまんなかに生えている元凶のツタの木を倒す……みんなを締めつけているツタの力はたいしたことじゃないんだけど(だって殺されないもん)、でも、みんながその気にならなきゃ意味がない……そうしてそれをおもしろいから……!でやるんだね!
『びりっかすの神さま』は、お父さんが過労で死んじゃって、半狂乱になったお母さんに、もうあんたはがんばらなくてもいいからね!と叫ばれてしまった、はじめ君の物語。
 そう言われたからって素直に○点とるこいつも変なやつだけど、○点とったら教室のなかを飛んでる小さい人を見ることができるようになったんです。
 テストで最下位になった子は、そのびりっかすの神さまを見ることがてきて、おまけに神さまを見た子同士はテレパシーで話ができる! こりゃわくわくもんだよね!
 というわけでがぜんクラスの劣等生連中は楽しげになり、悪い点をとるのが突然流行する……こうなったのも、先生が毎週テストをやって点数順に机に座らせるようなやっだったからで(要するに、おたく……なのよ。こういうのが最高権力者だとホント、始末が悪いね)、とうとういつも一○○点取るような優等生ばかりが取リ残されてあせることになります。
 で、そのなかで、でもわざわざわかってる答を書かないなんてギゼンじゃない?という真剣な訴えが出てきて、それもそうだよね、とみんなで考えて、それからどうなったかは、それは読んでのお楽しみ。
 ついでに言うと、その後先生はノイローゼで登校拒否になるんだ。
 岡田さんという人は学校のシステムそのものをひっくリかえすだけの力はないけど、せめて、せめて……と必死になって祈ってるんじゃないかって気がするんだけど、私の考えすぎかな?
 でも子どもたちは誰に言われなくともめざとく彼を見つけだしました。
 私が〃ムンジャクンジュ……〃〃ムンジャクンジュ……〃ってわめいていた時には、大人は誰もきいてくんなかったんだけどね。
 子どもたちだって必死ですからね、自分を可愛がってくれる人はめざとく見つけてなつくもんですよ、そリゃ。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ子どもの本案内』(リブリオ出版1996/07 本体1796円)