やまなし

宮沢賢治・作 小林敏也・画
バロル舎

           
         
         
         
         
         
         
    
    


 「やまなし」とは、野生の梨(なし)のこと。この話の舞台で、そしてたぶん主人公でもある川は、鋼のように青く澄んだ水がたっぷりと流れています。そしてかわせみが魚を取り、やまなしや樺(かば)の花が流れてきます。今はもう、それだけで十分おとぎ話になってしまうような世界です。
 賢治は、その川の蟹(かに)の親子の視点で、夏から秋へと川底の小さな暮らしをスケッチしました。小林敏也のイラストは、川底から見上げた水中の世界を、光と陰のスペクタクルとして描きます。たとえば、「にわかにパッと明るくなり、日光の黄金(きん)は夢のように水の中に降って来ました」という箇所。言葉と画が競争したり、補いあったりしながら、ほんとうに「夢のよう」な情景を描き出しています。
 小林敏也は沼津出身のイラストレーター。「画本宮沢賢治」のシリーズで、「やまなし」のほか、「どんぐりと山猫」「オッペルと象」などを出しています。
 (岡)=静岡子どもの本を読む会
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