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ファンタジーの淵源は神話である。とすれば、日本の創作ファンタジーが古事記や日本書紀の世界に注目しはじめたのも当然だろう。 すでに、荻原規子、上橋菜穂子らによって水準を抜く作品が生まれてきている。 この新作は、クサナギの剣にまつわる歴史ファンタジーとして構想されたそうで、長大な野心作の序章の部分ということになる。 舞台となるのは、弥生時代の出雲。肥の川の流域に位置する三つの部族間の矛盾の激化を背景に、製鉄の民クサナギ族の若き族長ナギヒコの死までを描く。 ナギヒコの族長就任のときに鍛冶の司に作らせたのがクサナギの剣だったのである。ナギヒコを謀殺したのは、タケハヤ族の族長スサノオである。のちに、スサノオが殺したのはヤマタノオロチ(八岐の大蛇)だったと伝説化されるわけだが、その八頭八尾のオロチとは「歴史から葬り去られた実在の人物」だったというのが、このファンタジーの発端である。 力作ではあるが、場面の描写や人物像の書き込みは決して十分ではない。物語るという文体が確立していないためか、作者は内的イメージの説明に終始してしまったようだ。 欠点の多い作品だが、評者は作者のつかれたようなひたむきさにひかれる。あせらずじっくりと続編に立ち向かってほしい。(斎藤次郎)
産経新聞 1998/01/12
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