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今月は、日本の児童文学のファンタジーの分野で目覚ましい活躍をしている二人の作家の新作を紹介する。 『闇の守り人』は、前作『精霊の守り人』で、独自のファンタジー世界を築いた上橋菜穂子さんのシリーズ2作目。前作でも活躍した、女用心棒バルサが、ここでもひたすら強くてかっこいい。従来の児童文学では見受けなかったこのキャラクターが新鮮だ。 物語は、バルサが生れ故郷のカンハル王国へ舞い戻るところから始まる。バルサが戻ってきたのは、故郷を見つめることによって心の古傷を癒すため、そして、育ての親であり短槍使いの師であったジダロに、もしも親族や友人がいるのなら、真実を伝えたいとの願いからだった。 ところが、王国では陰謀がうず巻き、たちまちハルサの身辺にも魔の手が伸びてくる。王位継承をめぐって、バルサはまたもや血なまぐさい戦いをかいくぐり、思いもかけぬ王国の秘儀の場に身を置くことになる。こうして、筋だけを追っていけば何とも殺伐だし、物語を万向づける「王位継承」「陰謀」「裏切り」といったモチーフもいわば手垢にまみれた感のあるものだ。架空の王国を舞台とした、この手の復讐冒険物語もすでにたくさん書かれているだろう。にもかかわらず、この作品には独自の風が吹いている。読み進むうちに砂摸で風の音楽を聴くまうな一種の爽快さを感じてくる。 それはたぶん、細部の描写が優れているせいだと思う。架空の土地の食べ物や植物や生き物、市場でのようす、はたまた時間の単位までが精密に創作されて、リアリティーあふれているのだ。 一方、たつみや章さんの『月神の統べる森で』も、ファンタジーの連作長編シリーズのスタートとなる作品だ。山や川や木々や獣にも、人々が神の存在を信じていた太古の昔。月神の統べる森の恵みを受けて平和に暮らしていたムラに、ある日、他民族が侵入し、土地を囲ってクニとする。 侵入者たちの横暴に抗議したムラの長アテルイと巫者シクイルケは逆に捕らえられるが、神々の力を惜りて逃亡する。その途中、二人が出会ったのが、伝説に登揚するひすい色の瞳を持った少年だった。その子は災いの前ぶれでもあり、またその災いと戦って人々を救う英雄でもあるという。 神話的世界を違和感なく物語に溶け込ませて独自のファンタジーを構築するのは、やはりかなりの力量だと思う。異なる二つの民族の対立を縦糸に、これからシリーズがどう展開していくのか楽しみだ。 2作とも、魅力的なさし絵が大いに物語をひきたてている。(末吉暁子)
MOE1999/05
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