やっぱり おおかみ

ささき まき/作
福音館書店 1973

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 このオオカミは、通称“け”のオオカミと呼ばれています。
 「おれに似た子はいないかな」といってやぎの町やヒツジの町を、オオカミの仲間をさがしてウロウロするこのオオカミの子は、結局みつからずに「けっ」という捨てゼリフを吐いて次の町へいくからです。
 この“自分と同じ相手”が欲しい、というのは、たとえば外国にいて、同国の人、同郷の人と会うと嬉しい、ということから始まって、いまではもっと内面的に、たとえば同じ傷を持っている人が欲しい、とか、同じ色のたましいを持つ人が欲しい、というところまでいってしまいました。
 あまりにひどい傷を内面的に負ってしまって、同じことを経験した人たち同志でないと、もうつらくて一緒にいられない、というのはベトナム帰りで森に暮らし始めたもと兵士たちのセリフです。アメリカには子どもたちのために、親と死別した子にはそういう経験のある人を、両親の離婚を経験した子には、やっぱりそういう経験のあるお兄さんやお姉さんを派遣する、ボランティア組織があるそうですが(ビッグ・ブラザーズといいます)そうすると、なんにも説明しなくてもわかってもらえる部分があるので、とてもラクなのだそうです。
 この“け”のオオカミは、日本で小さい子どもの世界にそういう問題を持ち込んだ、たぶん初めての絵本でしょう。そうしてこの本がどれだけ熱狂的にウケてるか、を考えれば、いまの日本の子どもたちの孤独の深さも知れようというものです。初めはティーンエージャーにウケてたのに、いまは五、六才の子たちにもウケてるんですから―。(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化藤井みさ