野菜畑で in the Vegetable Garden

川上越子絵と文
架空社刊

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは、いわゆる絵本ではありません。どちらかといえば画集でしょうか。子どもの本の顔もしていません。でも、とても楽しい本ですし、十分子どもたちと一緒に楽しめると思います。(本屋さんで何か面白そうな本ないかな、とぶらぶらしていた時に見つけたのですが、その中にいっぱいつまった、野菜たちの姿がとても気に入って、さっそく買い求めました。)
 畑で気ままに楽しげに笑っている野菜たちの素顔の表情は、八百屋さんでお化粧されてお行儀良く並んでいる野菜たちとは、ずいぶんちがいます。
 畑を作っていると、特にラディッシュなど、青虫の餌にするためにせっせとつくっているのではないかとため息をつきたくなるほど、あっというまに食い尽くされてしまうものですが、この本の中のラディッシュぼうや達は、そんな人間どもの困惑をふきとばすかのように、にこにこ笑っています。しかも添えられた文は「レースから射すこもれびが舞台を明るくてらしています ディナーのお礼は、はい バック転!」
 キャベツ畑では、キャベツのおじょうさんが、「雨の日だけの品揃え できたて特製の首飾りはいかが」と近くを通る人たち(青虫たち?)に声をかけます。
 畑におちた茄子には、「遅刻してならづけになりそこなったって泣くことないじゃん」
 台所で野菜と向き合っている時には決して気づかない、生き生きとした野菜たちが、この本の中でのびのびとユーモアたっぷりに生きています。
 一人の画家の目から見た野菜畑を通してわたしたちも、夏の畑に遊びにいったら、野菜たちのおしゃべりを聞けるかもしれない、聞こえるといいな、と思わせてくれる一冊です。
 食卓に並ぶ野菜たち。畑に並ぶ野菜たち。どちらも、いとおしくなってしまう、この画集。子どもたちと一緒に開いてみてください。(米田佳代子)

徳間書店「子どもの本だより」1994年9/10月号
絵本ってオモシロイ「絵をみてると、楽しい。食べると、また楽しい」
テキストファイル化富田真珠子