「弥生の村」を探しつづけた男


鈴木喜代春著


あすなろ書房 1996


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 この本は、青森県南津軽郡の田舎館村にある弥生の村・垂柳遺跡が発見されるプロセスを、著者の同窓生であり友人だった工藤正の一生を伝記風に追いながら、明らかにしているユニークな作品である。
 工藤正は一九二五年、テーマの場所である田舎館で、水田二町歩を持つ自作農の長男として生まれる。(一九四五年以後に生まれた人たちは、自作農という言葉を知らないかもしれない。この本は、今は消えた農村生活のあれこれがわかるようになっている)。工藤は子どものときに土器の破片を見つけて興味をいだき、見つけるごとに保存する。小学校卒業後、農林学校、師範学校と進み、小学校、中学校の教師を続け、その間郷里の土地から出土する土器の研究を続ける。
 工藤は、その土器を「田舎館式土器」と命名して、それが弥生式土器であるとした伊東信雄の学説を裏づけるための調査と発掘の末、籾(もみ)入りの土器や焼き米を発見する。そして、一九八一年に、ついに水田が発見される。一人の篤学の士の情熱の成果である。
 著者は、長い間青森で共に教べんをとった友人を、深い尊敬の念と強い興味を持って、しかし感傷に堕することなく、わかりやすく語っている。楽しみながら読める本である。 工藤については、日本史の事典などには「地元の研究者」という記述しかないという。(神宮輝夫)
産経新聞 1996/11/01