夜のパパ

マリア・グリーペ 大久保貞子:訳
偕成社

           
         
         
         
         
         
         
    

 ユリアの母親は夜勤看護師なので、夜の間娘の面倒をみてくれる人を募集します。で、雇われたのが、ふくろうを飼っているための昼夜が逆転してしまっている、男の人。それが夜のパパ。
 ユリアは最初、夜のパパなんていらないと思います。もう学校に行っている歳だからと。でも、もちろん、夜のパパがどんなやつかに興味はあります。わざと眠った振りをしているのに、なんで起こしてくれないんだと、自分で起き出したりね。そうして、ユリアと夜のパパの毎夜が始まります。
 実は、ユリアは本名ではありません。夜のパパに名前を訊かれて、本名を嫌っていた彼女は、彼に別の名前を付けてもらう。子ども自身が指名した、名付け親ですね。そうすることで、夜のパパとユリアは子守人と依頼人の子どもの関係から、仮の親子になります。
 クラスメイトたちから集めた情報によるユリアのパパ像は、「パパというのはうるさい人種で、いろんなことを自分で決めたがる」。生まれた時からパパを持たずに生きてきたユリアですから、そんなパパならいらない。ところが夜だけやってきて、朝起きた時にはもういないこの夜のパパは、ユリアの話をちゃんと聞いてくれるし、対等に扱ってくれます。時には夜のパパがユリアに説教されたりね。これは、夜のパパが仮のパパであることからくる気易さかもしれません。でも子どもとの関係を考えなおしてみるヒントにはなります。
 学校でユリアは自分には夜のパパがいると、言ってしまいます。そんなもの存在するはずがない。じゃ、その人は昼どこにいるの、と尋ねられ、彼の電話番号を教えてしまう。いたずら電話するクラスの子たち。反省したユリアは、自分をしつけるために、嫌いな編み物を始める。「これまでにうけたしつけじゃたりないっていうの?」と夜のパパ。ユリアは答えます。「あたしのあつかい方を知っているのは、あたしだけだわ」。でもちょっと自分に厳しすぎないかい? 「いったん自分にノーといったら、かならずそうするの」。
 ユリアにはユリアなりのプライドがあるわけです。いやこれは何もユリアだけのではなく、子どもは大人が思っている以上にこうしたプライドを持っています。
 さすがの夜のパパもユリアの態度にとまどっていると、彼女、「あたしが自分にノーといったからって、ほかの人までノーというひつようはないの。(略)だから、あなたもずっとあたしをあまやかしていいのよ、ほんとはあたし、そうしてもらいたいの。あなたのかわりにあたしが自分にきびしくするから、あなたはきびしくしなくていいのよ、わかった?」だって。
 信頼と甘えと親しみ。大人の向けて、子どもの心がまっすぐ開かれた名場面です。ちょっとうらやましい?(ひこ
徳間書店「こどもの本だより2002.01/02