ユーリアの日記

ネストリンガー,C. 文
ナムーラ ミチヨ 絵 松島 富美代 訳 1995 ほるぷ出版

           
         
         
         
         
         
         
     
 ユーリアは、数年前の誕生日に、ママが少女だった頃情熱的にあこがれて」いた日記帳をもらった。14歳になったユーリアは、その日記帳に離婚した両親への気持ち、学年末の試験で苦労している学校生活のこと、ボーイフレンドのシュテファンとの恋の悩みについて書いている。            

 この日記はユーリアの14歳の誕生日から始まっている。もらったプレゼントを本心から喜んでいないけれど、本当の気持ちを顔に出さず演じている。いやなプレゼントを友達と交換しようと考えている。ユーリアのことについてはすべて自分が管理していると思っている母親への言い訳も考えながら。
 両親の離婚は、父親が母親以外のいろいろな女性と付き合っていたことが原因だった。今も次から次へとたくさんの女性とつきあっている。約束の時間に遅れたり、早く帰ったりするけれど、ユーリアに会うことを全然いやがっていない。ユーリアも父親に距離を持ったり遠慮したりしていない。むしろ、私とパパとの関係に女の人達は無関係、私はパパにとって一番大切な娘」という意志を持っている。 
 パパはユーリアをとても大事にしているし、少ないと言われながらも養育費を出し、ママとユーリアの家の電気代や暖房費も支払っている。会えばけんかをしてしまうのに、ユーリアのためにはママと会う。よさそうな男の人に見える。しかし、ユーリアの生活や成長に責任を持っているのかしらと思う。何か不安なものを感じる。
 母親は一年前から恋人がいるけれど、そのことを隠していた。ユーリアには仕事をして、家事もこなしてがんばっている、母親の面しか見せていなかった。このことが判明したとき、ユーリアは怒ったり、悲しんだりしていない。ただ、恋人をママと私の生活領域には入り込ませない、と宣言している。
 ユーリアは離婚した両親に対して、父は父、母は母、それぞれが自分自身の生活を楽しんでいいけれど、私と父,私と母との関係には何人も入り込ませて欲しくないと思っている。自分の今の居場所を壊されたくないと思っている。私を挟んだ父と母の関係が、それぞれ独立した二つの物でなく、できれば元の家族のように一つになれたらいいなと思うこともある。それは、いつも自分を守るために、自分に係わる大人たちに本音を言わないユーリアにとって、自分の周りの壁をとっぱらった、自然にわきあがる気持ちだと思う。
 両親が離婚することは、子どもの心に大きな負担を負わせることになる。ユーリアのように表面は明るく、何の不自由も感じてないように見えても、自分の存在場所を確保するために心に壁を作り、周りの大人たちと争わないようにしている。
 ユーリアとコリーナの会話から、14歳にして性についての知識が豊富なことに驚いた。初体験を考える時、避妊も同時に考え無くてははいけない事だと自覚している。しかし、14歳のユーリアが婦人科医で避妊薬をもらうことはばかげているとも思っている。それが、婦人科医の仕事だとわかっているけれど、現実は複雑だと思っている。
 ユーリアがシュテファンとの性体験についてパパの意見を聞いた時、パパは、ユーリアが自分で自由に決めていいと言っている。
ただ、ユーリア達の場合は夏休みの間離れ離れになるので、決定は秋に延ばすべきだとアドバイスしている。年齢が低いのに、自分で自由に決定することはいいことだろうか。いろいろ知識があるから、それでいいという事がらではないと思う。
 ユーリアは、ボーイフレンドのシュテファンから突然別れの手紙をもらったことの理由がわからなくて、悲しみにくれていることをママに話してしまう。思い当たることとして、シャワー室に誘ったことも話す。一人でかかえていた悩みを口に出してしまったことと、ママにやさしくなでられたことで少し心が軽くなる。ママの思いやりある行為で救われたユーリアであった。
 ユーリアの周りの人々は、性について真面目である。コリーナは、性体験について賢明な意見を述べ、2つ年上のシュテファンは、初体験に対して理性的に自己を制御しようとしている。私も14歳の子どもの性体験には反対である。
 ともあれ、シュテファンの誤解は解け、14歳のユーリアの夏は楽しくなりそうだ。(林嘉代子
たんぽぽ17 2000/04