ゆき

ユリ・シュルヴィッツ

さくまゆみこ訳 あすなろ書房

           
         
         
         
         
         
         
    
 寒いのは嫌いな私。風が冷たくなると、必ず風邪を引くからです。でも、冬が嫌いになったのは、大人になってからの気がします。子どもの頃は、暑い夏より、木枯らしの吹く季節、イべントの多い冬休みが待ち遠しかった。
 風の匂いが変わって、つーんと鼻の奥まで寒さがしみてくる季節になると、そろそろ雪が楽しみになってきます。雪がふると、いろんな事をして遊べるし、大雪の日は学校だって休み(だったのです、私の育った所では)。それに、何より楽しみだったのは、世界中が晩にして変身する雪の魔法! 早く雪が降らないかなあ…雪がたくさんつもらないかなあ…と毎日窓から灰色の空を眺めていましたっ徳間からも「あるげつようびのあさ」という本を出版しているアメリカの絵本作家シュルヴィッツの、久々の新作「ゆき」の原書を、おととしのボローニャの児童図書展で見たときは、思わず溜息がでました。もちろん、感嘆の溜息です。いろいろな事情で、この本を徳間から出すことはできませんでしたが、こうして日本語になった「ゆき」を見ると、またあのときの新鮮な感動が蘇ってきます。
 空を見上げていた一人の男の子、雪の最初のひとひらに気が付いて、「ゆきが ふってるよ」と言うのですが、大人はだれもまともに相手をしてくれません。「これっぽっちじゃ ふってるとは いえんな」とか、「すぐに とけるわ」とか。テレビやラジオまで、「ゆきは ふらないでしょう」なんて言っているしまつ。
 でも、雪は降り続いたのです。どんどん、どんどん降って、そして最後は…。
 大人は、人生経験が長い分、何でも知っている気になって、子どもの見つけた小さな驚きや喜びに耳を傾けようとはしません。経験から出る言葉は、正しいことも多いかもしれません。でも、経験が多いあまり、小さなことに気が付かない、そして、昔だったら感動していた事にも慣れっこになってしまっている…この本の主人公と一緒になって、雪のひとひらひとひらをじっと見つめていると、脇役の大人達がすっかりひからびてしまっているように見えてきます。この男の子の住む町は、どうも小さな町のようです。でも、小さな商店街には、本屋が二軒もあります。そして、その一軒はマザーグーズブックスという名前の本屋さん。子どもの本屋さんでしょうか。雪がしんしんと降り積もり、町中が雪化粧を始めると、そのお店の看板に描かれた絵がすっと地面に降り立って……。
 一ぺージ一ぺージをゆっくりめくって、男の子、犬、町のようす、そして、この本の本当の主人公「ゆき」を心から楽しんでください。もちろん、表紙と裏表紙も忘れずに。抑えた色使いの静かな絵と、とてもシンプルな文章なのに、語りかけてくるもののとても多い一冊です。(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより 1999/01,02 29号