ユメミザクラの木の下で


岡田淳


理論社 1998


           
         
         
         
         
         
         
     
 舞台は、どこかにありそうで、どこにもなさそうな不思議な森。住人も一風かわっているが彼らの住む家もずいぶん奇妙だ。主人公のスキッパーが博物学者のバーバさんと住んでいるのはウニをのせた船みたいな家。横に寝かせたガラス瓶や巻き貝や湯沸かしを住まいにしている人もいる。ユニークな人々が織り成す様々なエピソードや事件で物語が展開する「こそあどの森」シリーズの四作目。
 コオリイタチの観察のためにツララ岬に旅行中のバーバさんからスキッパーに手紙が届く。そこに「かくれんぼしている子どものようにわくわくしている」とあったが、スキッパーはかくれんぼがどんな遊びかわからない。そして春先の森に散歩に出かけたスキッパーは不思議な少女と出会い、その仲間の子どもたちとかくれんぼをすることになる。急に現れたり消えたりする子どもたちは、いったい何なのだろうか?
 忽然と森に姿を現した満開の大きなユメミザクラの木の下で、蜂蜜から作った蜜酒に心地よく酔いしれて、すっかり寝込んでしまった森の大人たちが語るユメミザクラの伝説。現実とも夢ともつかぬあわいに、時間さえも溶解するようなのどかで不思議な空間が現出し、心地よいまどろみの世界に誘われる。
 無数の桜の花びらが音も無くはらはらと舞い散り、空中を埋め尽くすエンディングは、それに続く見開きの挿絵とともに鮮やかで見事な構成で印象的である。(野上暁
産経新聞1998/12/29