『LIFE with Father』

Little, Brown & Co. 刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 この原稿を書いているのは、ちょうどお盆の週にあたります。この週の東京の電車は、普段よりずっと空いていて、いつもはたくさんいる「勤め人」に代わって、「お出かけ」の家族の姿が多く見られます。たいてい、元気いっぱいの子どもたちと落ち着いたようすのお母さん、それに、なんだかお疲れのように見えるお父さんの組み合わせ。中には、まだ午前中なのに、一人居眠りしているお父さんも…。
 そんなお父さんたちの姿を見ているうちに、ある写真集を思い出しました。『LIFE with Father』は、アメリカの長寿雑誌「LIFE」の過去の写真の中から、「父と子」の姿ばかりを集めた一冊。(数枚だけ、「お祖父ちゃん」も登場しますが。)最も古い写真は一九三〇年代に撮られたもの、新しいものは一九九〇年代の撮影で、当然撮った人もさまざまなら、写っている親子の人種・生活環境もいろいろです。大方の写真はアメリカ国内で撮られたようですが、中には、「初めてイスラエルのイタリア系ユダヤ人地区で生まれた」赤ちゃんを誇らしげに掲げる若い父親(一九五一年撮影)や、障子の前で和服を着てあぐらをかき、膝の上の息子に目を細めている日本のお父さん(一九六六年撮影)の姿も。
 子どもにキスしたり抱きしめたり、一緒に遊んだり(息子と同じくらい真面目くさって模型の機関車を操作しているお父さん、まだよちよち歩きの年齢の子に、真剣な目つきでボウリングのやり方を教えているお父さん、もちろん、子どもたちを膝に載せて絵本を読んであげているお父さんもいます!)といった、楽しげな場面だけでなく、「お父さん大変ね!」と思わせる写真もたくさんあります。朝の四時に、額にしわを寄せて、三つ子に順ぐりにミルクを飲ませているお父さん。もうかなり大きい二人の娘を、一人はおんぶ、一人は肩車して、前屈みになって必死で階段をのぼるお父さん。新聞を読んでいるのに、後ろから娘に「柔道の技」をかけられて、首をひねられているお父さん…。
 また、多くの無名の父親たちにまじって、J・F・ケネディやクリントンといった元大統領たちや、スティーブ・マックイーン、フレッド・アステアのようなスターたちも姿を見せていますが、有名人である父親の顔がよく見えなくても、親子の情景としてよければ採用する、という基準がはっきりうかがえて、好感が持てます。(たとえば、裏表紙に使われている写真の父親は、ロバ一ト・ケネディですが、普通に見ただけではだれだかわかりません。でも、くすぐられてキスされて大笑いしている息子の、幸せそうな表情が心を打つのです。)
 編者による短い前書きと写真のキャプションは英語ですが、英語がわからなくても、写真だけで十分に楽しめます。お疲れ気味のお父さんたちも、たまには子どもと一緒に、こんな本をながめてみませんか?(上村令)

芝大門発読書案内「いろんなお父さん」
徳間書店「子どもの本だより」2003年9-10月号 より
テキスト化富田真珠子