ラブジョイの庭

ルーマ・ゴッデン 作
茅野 美ど里 訳 偕成社 1995.11

           
         
         
         
         
         
         
     
 第二次大戦直後のロンドン、庶民の街キャットフォード通りにラブジョイは暮らしている。父は既になく、母にも置き去りにされた十一才の少女ラブジョイだが、小さくなりかけた服にブラシをかけ、靴も手入れをかかさず、下宿先のミセスコンビーに気を遣いながらも毎日を生き生きと過ごしている。ある日、コーンフラワー(矢車草)の種の袋を拾ったことから、花壇がほしいという夢がふくらみ、手助けをしてくれるティップ少年と共によその花壇の土を教会の裏庭に運び、花壇を作ったことがやがて傷害事件にまで発展してしまう。
 一方、土を盗まれたと主張する一群の大人達はキャットフォード通りと背中合わせの富裕なモーティマー広場の住人である。病身のオリヴィア、活動的なアンジェラ姉妹にとってラブジョイ達裏通りのこどもは「地に落ちたスズメ」にすぎなかったのだが…。
  “土”を巡る論争が面白い。ティップは“土”は自由なものだと考え、ラブジョイはただ黙々と運び、花壇委員会のメンバーであるアンジェラは所有権を主張する。(桂川河川敷に畑を作る人達も多く、行政の禁止の立て札も無視されている。近くの公園の金魚草やゼラニウムも植えては抜かれをくり返している)
 又、階層の違う裏通りのこども達を「落ちたスズメ」と決めつけて“慈善”で解決しようとするあたりに、イギリスの富裕層の或キリスト教的一面が顔を出してしまったりしてはいる。
 とはいえ、そんな大人の取沙汰にも負けず、施設に入れられたラブジョイは与えられた服を売り払って気に入った服と買い換えたりと自立心旺盛だし、彼女をとりまく少年達、大人達の生活ぶり、街の描写も生き生きしていて、四十年前の作品は古びてはいない。 (千代田真美子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19