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うっ、こんなにおもしろい詩ってあるんだ、とひたすら感動の一冊に出合ってしまった。この本『欄外紀行』(天沢退二郎著、思潮社・3200円)の魅力は、するり、と別の世界へぬけてしまう快感とでもいおうか。 一編一編が、なんだかシュールな短編映画みたい。遠い記憶の底にあるような、あるいは夢の中で行ったことがあるような風景の中に連れていってくれる。不思議だけど、どこかなつかしい。 たとえばこんな書き出しでぽーんと異次元に投げだされる。「さらさらさらさらと/さっきから魔物のけはいがする/戸外の青草の上に/さっきから放り出されてた人形のあたし」 あるいは最後に、いきなりとんでもないところへ突きぬける。「いつのまにかやってきたのか件(くだん)の巨大な白いトリが青じろい目のへりを血走らせ、くちばしもつけ根まで充血させてわたしの目の前に突っ立ち上がり、さあ今にもはじまろうとするこのトリとわたしとの死闘の期待に、広漠たる原野はいっときしんと静まりかえった。」 カーブでは車体が横倒しになり窓枠が歩道をこする市街電車。すこしかなしいゾンビが出て来る廃墟(はいきょ)。内蔵をサイコロ型に切りとる手術台・・・ああっ、紹介しきれない。ぜひ手にとって、迷路に入りこむように、スクリーンに引きこまれるように、たのしんで欲しい。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1991/07/14
テキストファイル化 妹尾良子
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