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話は、一四八三年に足軽出身の武将が南山城の狛城を落としたときからはじまる。足軽の九郎は、山城守狛秀を「竿金(さおがね)」をもらって見逃し、そのために殺されそうになるが、危うく助かって、村むらからの逃亡者たちがたてこもる山に隠れ、危険を冒して米を山まで運ぶ作戦に活躍したり、領地回復に努力する狛秀の娘が、水攻めによって行方不明になったとき、彼女を探したりと活躍する。 この九郎の動きが、ストーリーの軸となっている。一方、城も領地も失った狛秀は、南山城の国人たちの結束と合議による治国を夢見て、行脚を続ける。 この小説は、応仁の乱終結の十六年後から語りおこし、名目ばかりとなった足利幕府のもとで、幕府方の畠山政長と畠山義就が争い、長く居座る彼らを民衆が「長陣迷惑」として追い払い、八年間続く南山城惣国を樹立するまでの物語である。 一時的だが守護大名のいなくなった国を素材にしたこと自体に、著者の意図が明りょうに見て取れる。こうした作品は、えてして類型的なパターンにおちいるか、教科書的退屈そのものになる嫌いがある。この作品は、歴史ロマンスの要素はあっても、それにのめりこまず、史実は語られていても、物語の興味をそがないように抑制されている。そのために、歴史のうねりが大きく再現される。 質の高い歴史物語である。(神宮輝夫)
産経新聞 1997/11/18
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