レ・ミゼラブル 上下

ヴィクトル・ユゴー
清水正和 編訳 G・ブリヨン他 絵 福音館書店 1996

           
         
         
         
         
         
         
     
 「物語の本筋からはなれた話」を割愛し、原作の半分弱に整理してなお千二百ページ(上下合わせて)をこえる「編訳」である。いわゆる子ども向けのリライトものとはわけが違う。大河の流れを思わせる確固たる構成と展開が、人生の奥行きとでもいうべきものに読者を誘ってくれる。格調高い訳文に促され、はげまされて、久々に読書の醍醐味を味わった。
 ミュージカルのヒットもあるし、ジャン・ヴァルジャンの名前や「あらすじ」は、だれしもなんとなく知っているつもりだ。でも、本当にそうだろうか。有名すぎて読む気がしないという人も、一度読みはじめたら、やめられなくなるはずだ。一夜に一章ずつ、親に読んでもらうのもいいと思う。
 登場人物ひとりひとりの描き方が丁寧で立体的なので、その人々がおりなす「社会」の姿もいきいきととらえられる。そして、そこに「近代の理想」が熱烈に語られている。
 一八三二年、ラマルク将軍の葬儀に発したパリ暴動を描くある章で、ユゴーはこう書く。「人間の魂の騒乱にくらべれば、一都市の激動など、はたしてなんだろう? 人間は、たとえ一個人といえども、民衆と呼ばれる集団よりも、はるかに大きくふかい存在だ」
 小学生も「おもいきり背のびをして」(訳者)読むべし!(斎藤次郎)  

産経新聞 1996/05/24