ローズ・ブランチュ

ロベルト・イノセンティ 絵・文 クリストフ・ガッラス 文 ロニー・アレキサンダー
岩倉務 訳 平和博物館を創る会/編
平和のアトリエ/刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 この春、<ハロー・ディア・エネミー!>と名づけられた「平和と寛容の国際絵本展」が、子ども読書年にちなんで東京・日比谷図書館で催されました。JBBY(日本国際児童図書協議会)や日本ユニセフ協会などが主催するこの展示は、続いて全国さまざまな所で開催される予定ですので、ご覧になる機会もあるでしょう。
 そこでは、国境を越えて「平和」を呼びかける世界の絵本から、ミュンヘンの国際青少年図書館による選りすぐりの絵本が展示されましたが、その中の一冊がこの『ローズ・ブランチュ』です。一九八五年にスイスで出されたこの絵本の、色調を抑えた精緻な絵にこめられた訴えには、ページを開くたびに心を揺さぶられます。
 ドイツの小さな町のできごと。金髪に赤いリボンの少女ローズ・ブランチュは、出征兵士を見送って、無心にナチスの旗を振っています。でも、ローズはある日、ユダヤ人の少年が路上で拉致されるのを目撃し、トラックの跡を追って森に入ります。そこでローズが見たのは、収容所の鉄条網のむこうに立ちつくしている、多くの飢えたユダヤ人の子どもたちでした。ローズは家からこっそり食糧を持ち出して子どもたちに運びます。
 しかし、ドイツ軍が敗退し、町にソ連兵が進駐してきたころ、ローズが森に行ってみると、もう収容所は撤去されていました。失われた子どもたちに青い花を手向けるローズ。その時、霧の中から一発の銃声がひびき、少女の生命は奪われます。森にふたたび春がめぐってきた時、ローズの花は枯れて鉄条網にかかったままでした。
痛ましい結末ではありますが、戦争や差別にゆがんだ世界をありのまま見つめ、飢えた子どもたちに自分の食事を分け与えようとしたローズの純粋さに打たれます。戦争の対極である無垢な愛をあらわす、印象的な絵本です。(きどのりこ
『こころの友』2000.06