わんぱくきょうだい大さくせん

マヤ・ヴォイチェホスカ

清水真砂子訳 岩波書店

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 洋の東西を問わずここ十年ほど、子供の本の分野では今までタブーとされていたテーマに野心的に取り組もうとする作品が目立つ。離婚や再婚問題もその新しいテーマの一つである。マヤ・ヴォイチェホスカの『わんぱくきょうだい大さくせん』は離婚こそ扱われていないが、幼くして母と死別した子供たちとその父親の再婚をめぐる愉快な物語である。
 ニューヨークの小さな町に父親と住む三人兄弟は、それぞれが子馬を持ち、おもちゃも沢山あり、特に何不自由なく暮らしているが、三年前に亡くした母の想い出は濃く、母を求める気持ちは募る一方であった。ある日彼らは父に新しい母が欲しいとせがみ、母が来たら皆いい子でいると約束する。が、その直後彼らはいつものように大喧嘩をし、お手伝いさんも愛想をつかし暇をとってしまう。彼らは寄ると触ると喧嘩をし、その騒々しさと腕白ぶりは、三ヶ月間に六人のお手伝いさんが辞めるほどであった。今や家政婦斡旋所からも見放され、父親は絶望的になりながら新聞の求人広告で家政婦を求める。結果的には父親がスーパーマーケットで妙なことが縁で知り合った女性を妻として迎えることになるのだが、それに至るまでの子供達の行動はなかなかユーモラスでおもしろい。例えば一番下のオットは、新しい母親候補を捜しにコインランドリーへ行ってみたり、父のお伴をして出かけたスーパーで出会う女性ごとに「この人はどう?」と父にたずね父を赤面させたり、あるいは兄弟三人で求人広告の応募者の面接試験を勝手に行なってしまったり……。
 この作品では子供達の性格と心理が実に見事に書き分けられ、三人の兄弟関係を描く筆も鮮かである。また男手一つで三人の息子を育てていく父親の苦労や彼の吐く弱音には実感が込められている。
 ポーランド生まれのアメリカ人である作者は、作品の設定こそ母親の死別という形をとり、離婚という深刻な状況を回避しているが、実は現代アメリカの大きな社会問題となっている離婚や蒸発を憂い、残された家族の悲哀と苦労、及び家族の一人も欠けることのない家庭の幸福とそのすばらしさをユーモラスな物語の中で訴えているのではないだろうか。(南部英子
図書新聞

テキストファイル化大林えり子