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なんといっても『ワイルドミートとブリー・バーガー』がよかった。 舞台はハワイ島のヒロ。時代はサイジョー・ヒデキやゴー・ヒロミなんかがハワイでも人気のあった七○年代で、主人公は日系三世の女の子ラヴィ。女友達はひとりもいなくて、つきあってくれるのは女の子みたいな男の子のジェリーひとり。 男の子たちがジェリーのかばんからヒマワリの種をとろうとしたのをみたラヴィは、急所をけとばしてやろうとしながら怒鳴る。「あほなひよっこマッチョ。短足で、胴長で、真ん中分けのジャップ」 おいおい、おまえもジャップだろうがと、この科白には、思わず笑ってしまうが、気が強くてちょっと乱暴で、どこか抜けたところがある個性的なラヴィがむちゃくちゃ魅力的だ。 ここに登場する日系の人々はあまり裕福ではなく、ラヴィも父親に連れられて野鳥を撃ったり、家でヤギや牛を飼ったりしている。また子供たちも白人にあこがれていて、白人からは差別されていて、そのくせフィリピン系の人々をばかにしているところもあったりする。 とまあ、そんなハワイ島ヒロを舞台にラヴィのワイルドな毎日がつづられていくのだが、これが本当に強烈だ。精神病院で倒れた老婆をみたときの死への不安、大好きなバービー人形をめちゃくちゃにされたときのくやしさ、日本からハワイにやってきた祖父の話をきいたときの切なさ……ラヴィの悲しみも喜びも悩みも不安も、痛いほど読み手の胸に突き刺さってくるのだ。良い悪いではなく、現代日本のヤングアダルト作家には決して描くことのできない「激しさ」がここにはある。暴力的だとか感情の起伏が大きいとかそういうことではなく、「生」そのものの手応えが力強く伝わってくるのだ。それがとても快い。そして後半、ジェリーの兄とガールフレンドの悲劇、ラヴィのお父さんの事故などを境に物語が一気にクライマックスへ向かうあたり、小説のだいごみを十分に味わわせてくれる。 そう、これこそ小説だ! 景山民夫はジョン・オカダの『ノーノー・ボーイ』に感動してその舞台となったシアトルを訪ねた。ぼくもぜひハワイ島のヒロを訪ねてみたいと思う。 最後に翻訳について一言。ヤマナカのこの作品は英米で大評判となったが、これは全編がピジン英語という日系なまりで書かれていて、非常に読みづらいところがある。このあいだあるパーティでこの本の話題が出たとき、ある女性の翻訳者が、「あんな英語をよく訳せましたよねえ」といっていた。まったく脱帽である。(金原瑞人)
ぱろる10号 1999/05/10
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