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いよいよ刊行の運びとなったこの「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」は絵本界における今年最大の事件といってもいい。 このシリーズ、文章は古典童話をそのまま使っているのだが、現在第一線で活躍している画家、イラストレーター、写真家たちが思いっきり自由に作っているのが特色だ。 たとえばM・フェリックスの絵によるグリムの『ヘンゼルとグレーテル』(九〇〇円)。美術書から抜けでたような、幻想的な口絵を一目みるなり、その世界に引きずりこまれてしまうだろう。それに、お菓子の家の魔女の迫力!これほど魅力的で、これほどおそろしい魔女が『ヘンゼル』の絵本に登場したことは今までになかったはずだ。 たとえばアンデルセンの『モミの木』(九〇〇円)。このクリスマス・ツリーになったモミの木の物語はM・イムサンドの写真で構成されている。そしてモミの木はなんと男の子! 第一ページ目、「ほかの木みたいに大きかったらいいのになあ」とモミの木がつぶやくところは、森のなかにちょこんと立っている、かわいい男の子の写真。そして最後にたき木になって燃やされてしまうところは、暖炉の炎のうしろに、男の子の顔が浮かんでいるといった具合だ。 このシリーズ、まだ四冊しかでていないが、全部で二〇冊になる予定。ほかにもサラ・ムーンの写真構成による『赤ずきん』をはじめ異色作がごろごろしている。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1988/12/11
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