わら屋根のある村

権正生・作
仲村 修・訳/てらいんく

           
         
         
         
         
         
         
    
 今月は、翻訳出版されたばかりの、韓国のすぐれた児童文学をご紹介します。
 韓国語でチョガ(草家)と呼ぶ、美しい藁屋根の家のあるのどかな村。弾けるように元気な子どもたち、純朴な村人たちの暮らしの中に、突然<戦争>が襲ってきました。日本の植民地支配からやっと解放されて五年、人びとの統一の願いにもかかわらず、朝鮮半島は八度線で分断され、さまざまな国が介入する戦争が始まりました。同じ民族同士で争わねばならなかったこの朝鮮戦争は、数百万の死者とともに、多くの離散家族の問題を現在まで残しています。
そして日本はこの戦争の後方基地となり、その特需で儲けて戦後の経済を発展させたのでした。
でも、この物語はそうした背景を持ちながらも、けっして声高にその悲惨を訴えてはいません。
一九五〇年六月二五日、村人たちの生活は一変し、避難行が始まります。はじめは遠足気分だった子どもたちも、食糧が底をつくにつれて辛酸を味わいます。やっと村に戻ってみると、北の人民軍と南の国軍、そして国連軍の戦闘に村は翻弄されているのでした。
 そうした中で、必死に考え、行動し、成長していく子どもたち一人一人を、作者は実に暖かく、愛をこめて描いています。ラストで若者となった福植が、人民軍に参加していった父親に、国軍兵士として刃向かわねばならない悲劇に苦しみ、教会へ行き、ケセマニ(ゲッセマネ)のイエスのように祈る場面には心打たれます。結局、福植は死を選んでしまいますが、親友の裕俊に「おどりをおどりながら暮らせる村を作れ」という言葉をのこすのでした。
作者は『モンシル姉さん』など多くの作品がある韓国の代表的な児童文学者で、クリスチャンでもあり、南北にかたよらない視点で独自の文学を確立しています。(きどのりこ
『こころの友』1999.02