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この作品の一番の魅力は、作者自身によるさし絵であろう。独特な雰囲気をかもし出す木版画の細密画で、特に猫の描写はすばらしい。作者が長年かわいがっていた猫がモデルのようだが、猫を心から愛し、その表情や習性を知りつくした人ならではのリアルで魅力的な描き方である。イギリスの作家であり木版画家である作者は、我が国ではC・ブリッグズ作『妖精ディックのたたかい』『魔女とふたりのケイト』(いずれも岩波書店)などの作品のさし絵画家として知られている。 物語の主人公は12歳の少女ルース。両親が不仲で父が家を出てしまったため、新しく仕事を見つけてきた母とともに、住みなれた家をはなれ母の職場近くに移り住む。両親の別居だけでなく、見知らぬ土地でのいじわるな大家さんのもとでの生活、転校先の学校での仲間はずれなど様々な不安におびえていたルースは、たまたま道端で1匹の猫に出会う。「カモフラージュ」と呼ぶと反応したその猫は、ルースの家に寄りつくようになり、その後ずっとルースの心の支えとなる。物語は、猫嫌いの大家さんに隠れて猫の世話をしながらこっそり飼い主を捜したこと、猫を散歩に連れ出した際にマイケルという同い年の少年やその家族と知り合いつき合いが始まったこと、猫の飼い主はミス・バーナビーという非常に個性的で素敵な老婦人だったこと、そしてなぜか父と母が仲直りしてまた一緒に暮らすようになったことなどルースの日常生活が淡々と語られる。しかしそれがあまりにも淡々としすぎて盛り上がりに欠けるのも事実である。特にルースの口から一人称で語られることを考えると、ルースの不安や葛藤など内面への掘り下げがもう少しあってもよかったのではないかと思う。また家族のあり方、真 の友達、仕事と趣味、羊のように「群れる」生き方と猫のように「ひとりで歩く」生き方についてなど提起されている問題は多く、しかもどれも普遍的で重大な問題ばかりなのだが、多く盛り込まれすぎてどれも消化不良の感を否めない。 ドラマティックな展開がない分、読後の印象がうすいが、じっくり味わえば色々考えさせられる問題を含み、作者のメッセージがはっきりと伝わってくる作品である。(南部英子)
図書新聞 1992.2.8
テキストファイル化 内藤文子
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