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「子どもとして、ママの気持ちはだいじにしなければと思う。でも、それでは自分の気持ちをおさえることになる。わたしの悩みの日々がはじまった」。 家族を描いたもっとも新しい(94年)物語の一つは、こんな言葉から始まります。 主人公フェリは、ウィーンに住む十一歳の女の子。両親は十年前離婚。雑誌記者のママと二人暮らしの彼女はパパとは好きなときに会うことができる。だから、「学校で悪い点をもらったときは、どっちのサインをもらうか、子どもが自分で選ぶことができる!」わけ。ところがママはミュンヘンの「バキューン」誌の職が決まる。一応フェリは相談されるけれど、ママの顔には「ことわることは身を切られるよりつらい」と書いてある。やれやれ。 とりあえずママは単身ミュンヘンへ。フェリはおばの家に預けられるのですが、厳格さについていけず、パパのロフトに住むことにする。しかし、狭いロフトで潔癖症のパパと暮らすのは大変。 「『いっしょに住んでみなければ、その人間はわからない』というのはほんとうだ。自分の父親のことでさえ」。やれやれ。そこでフェリはママの家に引っ越すことを提案。そこなら個室が持てるし、フェリの通学にも便利。 ママの許可を得て、「おためし同居」が始まります。父親業に慣れていないパパは恋人と娘の間で右往左往。父の娘業に慣れていないフェリもドタバタ。そして、ようやく二人の家族としての関係が出来上がってきたころ、転職を中止したママが帰ってきます。ロフトに戻ろうとするパパ。しかしフェリは言います、ここでのパパとの生活になじんでしまったから、ママがパパのロフトで暮らして欲しいと。 突拍子もない提案のようですが、子どもの側からすると正当なものです。フェリはこれまでママとそうであったように、今度はパパと家族をしたい。その願いを誰も否定できないでしょう。そして実はこっちのほうが大きな理由なのですが、いくらパパと暮らしたいからといって、彼女は自分が慣れ親しんでいる、友達たちがいる土地を離れたくない。 ならばフェリの提案はベストです。だから、両親はそれを受け入れます。 「わたしの両親はもうとっくにわかれてしまっている。わたしはどちらかひとりでがまんするしかない」と言いきるフェリに暗さはありません。 だって、親から押し付けられたのではなく、自分が選択した生活がこれから始まるのですから。大丈夫。 子どもへの作者の信頼が心地良い、家族物語の逸品です。(ひこ・田中)
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