キングスフィールド2 (前)

 最も簡単に人を怖がらせる方法は、目の前に突然バッと現れること。何故か近ごろなくなりましたけど、夏になるとTVでやっていた幽霊物なんかの基本はこれ。遊園地にあったお化け屋敷もそう。スピルバーグ監督の芸風も殆どこいつでしょ。出るぞ出るぞ、なかなか出て来ない、そろそろ出るか、まだ出ない、ちょっと安心、突然ジョーズが恐竜がバッ!
 全く予測もしないのに突然バッってのは案外怖くない。せやかて、こっちにはまだ、怖がりたいという欲望がないのやから。せいぜいが、あれ? 何? こいつ? って程度。例えばドラキュラがどんな方か全く知らない私がいたとして、そんな私の前にあの格好の彼が突然出現したとしたら、ヘンなおっさんと思うだけやろうね。だから大事なのはこちらに怖がる準備をさせて、いいタイミングでどう出すか。そこに怖がらせる側のセンスというか力量が現れます。失敗すると怖がらせるどころか笑われてしまうから、怖いでっせ。
 TVゲームは怖がりたい人のためには絶好のメディアの一つです。だって、このメディアで遊ぶときって基本的にはたった一人でしょ。どこにどう怖がっても笑う奴は側にいない。怖がりたいだけ怖がりましょう。
 で、このソフト、怖いよ。私なんか、何度も背筋が寒くなってションベンに行ったもん。

1996/02/21


キングスフィールド2 (後)

 恐怖をかきたてるもう一つの方法は、未知の場所に私をポツンと置き去りにすること。このソフト、いきなりそれをしてくれます。しかも場所は孤島にポツンとある薄暗い城。ゴシックホラーの段取りです。
 たまに見つける人間に話しかけても不親切で情報は少ないわ、どこをウロウロしてもポリゴンで描かれた妙にリアルなモンスターが突然背後から襲ってくるわ、しかもフツーのRPGでは考えられないほどそいつらは最初から強いわ、逃げても追ってくるわ、逃げ切っても一歩間違えば、たちどころに足を踏み外して奈落の底に突き落とされるわ、はっきり言って初めてプレイする人の多くは、最初のステージでギブアップしたくなるでしょう(せやかてすぐに殺されてしまうのやから)。こんなに不親切なソフトも珍しい。でも、そこを頑張ってクリアできたら、たまらん快感に変わる可能性は高い。「私は恐怖を欲しているのや」と。
 ただし、怖がらせることに性急なあまり、怖がってしまうことの必然性、例えばメアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」(SFの始祖です)だと、科学の世紀へ突入する時代の悲しみのようなものがあるのやけど、現代におけるそれが感じられないのが残念。これだけセンスがええのやから次作ではその辺りをしっかり構築して下さいませ。

1996/02/28