川のぬし釣り2(前)

 「ぬし」。懐かしい言葉やね。もちろん、家主や、地主じゃなくて、昔、沼や川や池や湖にいた「ぬし」。本当にいたかどうかは関係なく、ナマズだのフナだのコイだの、果ては龍だの、子どもの頃、年寄りから聞いたり、噂で知ったりした「ぬし」が必ずいたもんでした。誰も実際に見たことはなく、せいぜいが何処やらの誰かが見たそうな、程度の話なのに信じてたでしょ。信じていたというより、眉に唾つけながらも信じたかった、が正しいかな。信じることで、何の変哲もないただの平凡な沼が川が池が湖が、確固たる存在を示し始める。畏怖の念を抱きながら、「ぬし」のいるその場所と対峙しようとする意志。それは、自分を中心として世界が回っていた、自分が王様だった幼年時代が終わり、世界と向き合う年齢になったということでもありました。
 などと、肩に力を入れなければならないゲームかといえば、そうではなく極めて牧歌的な釣りゲームです。浮き釣り、投げ釣り、毛ばり、ルアー、どの魚には、どんな釣り方がいいかを考えながら、七〇数種類の川魚を釣り尽くす楽しみ。
 でも、その最終目標のボス(?)が「ぬし」であることで、単なる釣りゲームのはずが、いつしか、子ども時代の野望が蘇り、心がときめいて来てしまう。
 「ぬし」かあ。ホンマにうまいネーミングやな。

1995/09/13




川のぬし釣り2(後)

 「ぬし」を釣るのを目指すのは父親と母親と息子と娘の四人家族。プレイヤーは誰か一人を選びます。それぞれが得意の釣り方があるので、もちろん全員ためすのもいい。
 けど、キャラが四人ということは、プレイヤーも四人まで参加できるわけやね。なら一人でやるより、家族みんなでやるほうが絶対おもしろい。かあちゃんが母親キャラを選ぶ、正当バージョンもいいけど、おとうちゃんが母親キャラを操作するのも楽しい。
 そして、このゲームにはおまけシステムがあって、実はこれがオススメしたいものなんです。
 システムの名前は絵葉書。
 例えば息子キャラをプレイしている人が絵葉書を買って、文章を書き、ポストに入れると、別のキャラに届くのです。別のキャラをプレイしている人がゲームを始めたとき、それを読めるようになっている。
 家族のコミニュケーションが希薄になっていると言われる昨今、このシステムを使えば、結構マジな会話もできる。せやかて、顔を突き合わせては、こっ恥ずかしくて出来ないけれど、一度はしたい大事な話なんかも、このシステムだと、「ゲームやから、冗談なんや。ハハハ」とかごまかしながらやれるからね。冗談のフリをしたって本当に伝えたいことはちやんと伝わるもんです。

1995/09/20