テレビゲームと癒し(香山リカ著・岩波書店)
若者や子どもが夢中になる新しいメディアが出現すると、いつの時代の大人もそれをうさん臭い目で眺め、事あるごとに非難し、何かが起こると原因をそれに求めようとします。自分には扱えないものを自由に操る下の世代は不気味で、自分の領域から逸脱して見え、何とか自分の守備範囲、管理体制の中に彼らを引き戻したい欲望、つまり恐れやね。
例えばTVゲームに関して最も言われてる問題点は、現実と非現実の区別がつかなくなるのでは、というもの。けど、私なんぞと違って、細切れの時間をやり繰りしながらプレイしている子どもたちは、自分が、その「細切れの時間をやり繰り」しなければならない時代の子どもである現実を嫌っちゅうほど自覚しているんやね。
この書物は、大学病院の研修時代、正に自分も「ドラゴンクエスト」によって癒された体験を持つ精神科医の著者が、「ゲームへの恩返し」として書き上げたもの。テレビゲームに対する大人の反応を、非難批判から擁護まで紹介しながら、生産的な議論を展開するための中立な場所作りをしようとしている。その様はテレビゲームへの愛情にほかならず、笑わしてナンボのこの私ですら、目頭が熱くなったりもしたんやね。心を閉ざしてしまっている患者の子どもたちと、TVゲームを媒介としてつながって行くいくつかのエピソードのなんとリアルで豊かな手触りであること。
この著者、ラブレターが上手に違いない。