98/09


           
         
         
         
         
         
         
         
         
         
     
 『・今「子供」が危ない』(Gakken 1300円)は、現在のこの国の子ども状況をルポやデータでコンパクトに纏めたムック本。目次から抜粋すれば、「・子供の心と体が蝕まれている ・学校が危ない! ・『キレる』子どもたち ・しのびよるドラッグ汚染 ・『現代型栄養失調』が子どもの心の健康をむしばんでいる ・急増する小児肥満と成人病」。
 ドラッグ、不登校、肥満など、個々のテーマはさして目新しい事例や主張を掲載しているわけではないが、子どもに関する、子どもを巡る、様々な問題素を全体として捕らえられるのがいい。この本、「新『驚異の科学』シリーズ」の中の一巻として出されている。ってことはその状況は「驚異」なわけやけれど、と同時に、このタイトルは、先月触れた「『子ども』の消滅」(斎藤次郎 雲母書房)と重ねて、これまでの「子供」観そのものが危ないという意味にも見える。
さて、児童文学。
 舞台は三十五年前の下関。あまり繁盛していないお菓子製造業の次男としたか十歳を主人公にした『まさきしょうてん ひとくちもなか』(村中李衣 大日本図書1333円)は、昔の子どもを懐かしむといった風情ではなく、としたかの子どもとしての日々をリアルに描いている。もう四人目なので、産むのを止めると決心して出かけた近所の婦人科の先生がたまたま留守だったので、お前を産むことにしたんだというかあちゃん。学校に渡す集金袋に、いくら言ってもお金を入れてくれないくせに、東京の大学に行っているにいちゃんの為なら、無理をしてでもお金を出すとうちゃん。おれはおまけで生まれて、にいちゃんはえこひいきされていると思っているとしたかだけど、物語に暗さは微塵もない。というか、とてもユーモラス。
 学校にお金を持っていけなかったとしたかは先生に怒られる。帰り道、洗濯ばさみのわっかに五円玉をはめて、コーラの自動販売機に入れる。と五十円玉と間違えた販売機はコーラとお釣りの十五円を出す。コーラの空き瓶を返すと十円返金される。「学校の集金の五百円、あしたまでに何本コーラをのめばいいんだろう?」と計算するとしたか。答えは二十五本。というエピソードなど、深刻に描こうとすれば描けるけれど、続けて「でも、そうか、せんたくばさみ、せんたくばさみが二十五個いるんだあ」と展開するとしたかの発想の流れが、おかしみに仕立てている。
 『ート・キッズ』(風野潮 講談社 1100円)は、酒と賭け事のせいでしょっちゅう仕事をクビになるお父ちゃんと、体の弱いお母ちゃんだから、いつも貧乏で、バイトをしなければならないし、家の家事だってやっている中学二年生の英二が主人公。この大阪弁で語られる物語は、見込まれて入部したブラバンでの仲間との日々と、英二の家族のありようが描かれている。後者では生まれてきた妹が心臓病で生死を彷徨ったり、そのせいで、お母ちゃんの心が閉じたり、それでも酒と賭け事に逃げるお父ちゃんをおれは殺そうと思ってしまったりと、暗い話題が満載なのだけれど、やはりユーモラス。それは、大阪弁の口調のおかしさではなく(そんなもん、大阪人にはおもろないのは自明)、自分を笑いの対象にするのを好む大阪人の習性を英二のキャラクターとして、うまく使っていることによる。「俺がなによりいやなのは、ふだんの父ちゃんと俺とがそっくりなことだ。朝、洗面所で顔を洗ってるとき、つい鏡の前でニへッと笑ってしまって、あまりに似てるので思わずへたりこ んでしまうことがある」といった風に。もちろんそれは自虐とは正反対の力を持っているし、何も大阪人英二だけではなく、他の子どもたちのサバイバルに役に立つノウハウでもある。
読書人1998/09/18