子どもの本を読む

中國新聞 1990.10.02

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 この夏、ソウルで、韓日台中(中国は書面参加)の児童文学者が一堂に会し、シンポジウムが行われた。また今月下旬には大阪国際児童文学館で日中児童文学シンポジウムが開催されるなど、これまで外国児童文学といえば欧米一辺倒だった傾向が少しずつ変化を見せている。こうした背景もあってか、アジアの国々の作品がぼつぼつ翻訳され始めているのは喜ばしい。

「車輪の下」を想起
 「ある15歳の死」の作者陳丹燕は、中国の女流作家で一九五八年生まれ。離婚、恋愛など、これまでタブー視されてきたテーマを正面から取り上げ、若い読者の指示を得ているという。
作品は日記風の構成で、十五歳で死を選んだ一人の少女と、これを取材する若い女性記者の視点が交錯している。主人公の少女は上海一のエリート中学に在学中だが、家庭的には極めて恵まれず、また学校の徹底した詰め込み教育に対する反発を抑えることができない。寮での生活など、ヘッセの「車輪の下」を思い出させるところもあるが、僕はこの少女の悲痛な苦悩のありようが、抱える問題や背景の違いはあっても、日本の思春期の少女たちと重なって見えることが驚きだった。
 夜明けのうた」は、タイの農村が舞台。作者のミンフォンホーはやはり女性で、現在アメリカとシンガポールを拠点に活躍中という。

国情を色濃く映す
 姉タワンと弟のクウェーは一つ違いで、共に奨学金を得て、都会の上級学校に進学することを夢見ている。しかし奨学金を得られるのは一人だけ、試験で一番をとったのはタワンの方で、これに対し父親は女が学問を続けることに賛成せず、二番だったクウェーに譲るようにタワンに迫る。今、自分は何をすべきか、迷うタワンは、何人かに相談するが、これに対するさまざまな答えが現在のこの国の状況をよく反映しているようで、興味深い。
 結局タワンは、上級学校に行く道を選ぶのだが、作者のまぶしいほどのストレートな問題のたて方に、こうした国々の明日への可能性を感じずにはいられなかった。
好対照の姉弟描く
 さて、これに対して日本の作品である。「ト・シ・マ・サ」(村中李衣)も姉と弟の話である。付属小学校の六年生で、塾でも頑張る姉に対し、付属に落ちた二年生の弟のトシマサは、まったくのんびり屋で、姉をいらつかせる。弟や、この弟にぴったりの家庭教師とのあれこれを通して、自分自身について考え始める少女の姿を軽快なタッチで追っている。
 「14歳 ゆらめきのなかで」の作者小川千歳は、二十代前半の若い書き手である。前作の「14歳の妖精たち」で拒食症の少女の姿を描いたが、その続編ということになる。拒食症からようやく立ち直ったように見えた光子だが、退院して学校に行き始めるようになり、今度は過食症に苦しむことになる。特に変わったところのない一人の少女の心理的なプロセスが、前作同様丁寧に描き込まれているが、作者が主人公に対し、一定の距離をとっている分、作品世界がさらに膨らんだように思える。(藤田のぼる
「本のリスト」
ある15歳の死(陳丹燕:作 中由美子:訳 福武書店)
夜明けのうた(ミンフォン・ホー:作 飯島明子:訳 佑学社)
ト・シ・マ・サ(村中李衣:作 陸奥A子:絵 偕成社)
14歳 ゆらめきのなかで(小川千歳:作 石倉欣二:絵 PHP研究所)
テキストファイル化日巻 尚子