子どもの本

東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    


 児童文学の中で歴史物、時代物の占める位置は、残念ながらかなり小さい。「にんたま」や斉藤洋の「なん者ひなた丸」といったシリーズはあるが、これらの作品の「時代性」というのは小道具の域を出ない。僕は、歴史小説、時代小説のおもしろさというのはファンタジーに通じると思っている。そこで描かれるのは、わたしたちの世界とは異質な風俗や論理でできている世界であり、見た目は少々違っていても、わたしたちと共通する喜びや悲しみを背負った存在であるわけで、これはそのままファンタジーの特質にもなる。殊に子ども読者にとっては、いわば過去を舞台にしたSF小説のように読めるのではないか。ところが子ども向けでは、伝記以外には歴史物、時代物の出版点数はきわめて少ない。今回は江戸時代を舞台にした二冊を紹介する。それぞれ定評のある作家の手になるものだが、どんな新趣向を見せてくれたか、まずはお楽しみというところだ。

『百万石ふしぎ話』
かつおきんや・作、黒田祥子・絵
(けやき書房、一六〇〇円)

 作者のかつおは、主に金沢や石川県を舞台とした作品で、児童文学における歴史小説の代表的な書き手としての評価を得てきた。
 本書は七編から成る著者久しぶりの歴史短編集である。冒頭の「うらない」は東京からきた孫に、祖父が幕末期に生きた祖先にまつわる話を聞かせるという設定だし、ラストの「つえ」は語り手である<わたし>が、不思議な小坊主からもらったつえで、過去の世界をのぞくというファンタジーの体裁をとるなど、手法の上でさまざまな工夫がみられる。
 それ以上にこれまでのオーソドックスな作風と異なるのは、奇談風な持ち味の話が多いことで、例えば「お礼」では、埋葬された母親から生まれた侍の話が素材となっている。
 昔の時代を舞台にするばかりでなく、そこから生まれた「不思議」を受け継いできた人々の心に迫ろうとする試みを、現代の子ども読者がどう受け止めるか、興味深いところだ。

『銀太捕物帳 闇の占い師』
那須正幹・作、長野ヒデ子・絵
(岩崎書店、一四〇〇円)

「ズッコケ三人組」でおなじみの、この作者の守備範囲は実に広い。中に、岡っ引きの息子が活躍する「お江戸の百太郎」シリーズがあり、これは文字通り「兄弟版」である。
 前シリーズでは百太郎は父親と二人暮らしだったが、その父親が銀太という息子がいる女性と結婚、つまり百太郎に弟ができたという設定になっている。その百太郎は、すでに同心のもとで本格的な捕物修行の身であり、今度は銀太少年が新しい父親を助けて、事件解決に活躍するという仕掛けである。
 扱われている事件は、連続誘拐、そして殺人で、「銀太捕物帳」というシリーズ名が示すように、時代ミステリーとしての性格をいっそう強めている。同時に、時代背景などの説明も思い切ってストレートに挿入しており、読者にとって相当に歯ごたえのある読み物に仕上がっている。
(ふじた・のぼる=児童文学評論家)
(東京新聞1999.09.26)
テキストファイル化日巻尚子