子どもの本

東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
宇宙への招待 藤田のぼる
毛利衛さんの二度目の宇宙飛行は、宇宙への旅がわたしたちにとって現実味を帯びたものになってきていることをあらためて感じさせた。ただ、毛利さんや向井千秋さんといったお手本が登場している割には、日本の子どもたちの宇宙への関心はいまひとつという感じである。例えば僕らの子どもの時代、天体望遠鏡というのは、小学校高学年あたりの男の子のほしいもののかなり上位にランクされていたように思うが、今はどうなのだろう。
子どもの時代の一冊の本との出合いということを考えたとき、もちろん文学作品から深い感動を得るということもあるが、未知のものへの関心やあこがれを激しくかきたてられるという出会い方も、その子にとってかけがえのない財産になるのではないか。そして、「宇宙」はその意味で格好の素材だと思うのだ。
ただし、問題は書き手だろう。専門的な学識と子ども読者に届く語り口というのは、なかなか両立し難い。今回、その点で格好の書き手を得た二冊の本に出会うことができた。

「大望遠鏡『すばる』誕生物語」小林桂一著 (金の星社、1200円)
ハワイ・マウナケア山頂に建設された巨大望遠鏡「すばる」は、昨年九月に完成式が催され、期待通りの高性能を発揮しつつある。反射鏡の口径八・二bは、一枚鏡としては世界最大で、国内では口径一・九bのものが最大だったのだから、破天荒ともいえる構想だった。基本的に口径が大きいぶん遠くまで見えるということであり、そのぶん遠い昔からやってきた光を受けることができるということでもある。つまり、巨大望遠鏡はタイムマシンでもありうるのだ。
ただし、この本のテーマは、宇宙観測についての科学的な解説ということよりも、「すばる」建設という大プロジェクトがどのようにして可能になったのかというプロセスに力点がおかれており、二十年にわたってプロジェクトを推進してきた著者ならではのリアリティーにあふれている。夢をじつげんすることのすばらしさと、それを支えるさまざまな試行錯誤の積み重ねは、宇宙という巨大な対象を前にしても、人間が決して卑小ではないことを雄弁に語りかけてくる。

「ヒトは宇宙で進化する」  三井いわね著 (ポプラ社、1400円)
著者は脳外科の医師であり、現在はアメリカNASAのエイムス研究所で、この本のサブタイトルでもある「無重力とからだの不思議な関係」について研究を続けている。著者はこども時代から宇宙飛行士にあこがれ、医師になったのもそのためというくらい、宇宙へのあこがれを持ち続けてきた。宇宙医学は、宇宙飛行士のバックアップから始まった側面もあるが、現在では無重力の状態を、病気の研究や治療のためにどう生かせるかという段階にきており、この本でもその具体的なケースがさまざまに紹介されている。軍事技術開発の最先端でもあるNASAの研究活動への評価がやや手放しに過ぎる感もなくはないが、科学研究が人間の可能性をどのように切り開いていくのかという点での、オリジナリティーと魅力にあふれたケースを目の当たりにするおもしろさがある。東京新聞2/ 27 / 2000
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