子どもの本

藤田のぼる
東京新聞

           
         
         
         
         
         
         
    
 今は日本でも「バリアフリー」という考え方の大切さが認められつつあるが、きわめて不十分というのは多くの人が指摘する通りだ。一つには制度や施設の面で中途半端な点が多く、実際に利用するのに困難が多いというハードの面があるだろうが、同時にそれに携わる人間の考え方、感じ方という面の大切さも強調されなければならないだろう。バリアフリーの問題にせよ、「国際化」といった問題にせよ、とかく建前に終わりがちなこの国において、やはり子どもの時期からこうした問題を無理なく実感できる環境づくりが望まれる。今回はそうした意味で「障害」というのが実際にはどういうことなのか、またわたしたちがそれをどう受け入れ、共に歩んでいくのかといったことを豊かに実感させてくれる二冊の本を紹介したい。いずれもこうしたテーマにありがちな、ある種の押しつけがましさと無縁なのは、著者が障害という事実と無理のない気持ちで向きあっているあかしだろう。

 『風のハンドルは白い雲』
     (小林あき・作、国井節・絵、岩崎書店、1300円)

 「マキちゃんと車いすドライバー」のサブタイトルが示すように、障害を持つ人たちのための自動車教習所が舞台。実在の人たちがモデルになっていると思われるが、交通事故で足に障害が残った兄を持つ五年生のマキが物語の案内役となっている。大学の夏休みに教習所に通い始めた兄の「付き添い役」を買って出たマキは、脳性マヒの高野君、手動の車いすの金沢さん、電動いすの上村さんとボランティアのラルフさん、聴力障害のこよみさんなど、たくさんの人たちと知り合いになる。
 免許までは厳しい道のりだが、車を運転することは自立への切実な一歩なのだ。教習の段階でのさまざまな苦労だけでなく、低公害車のこと、ボランティアの在り方、障害者の就職のことなど盛りだくさんの情報量だが、それらは別々のことではなく、「障害」はむしろ社会の側にあるのだということを気づかせてくれる。

 『はじめてみんなとかえった日』
     (いながきようこ・文、ふじたひおこ・絵、偕成社、1000円)

 サブタイトルは「はるなちゃんと1年3組の1年間」。著者はその担任教師で、授業記録形式のノンフィクションである。脳性マヒのため、歩行器を使うはるなちゃん。転んでも起き上がれないでいる様子を見た子どもたちは、「はるなちゃんが困った時にはどうしたらいいか」と話し合い、机の並べ方を変えたり、机の横にものをかけるのをやめる。また、はるなちゃんになってみようと、足に木の棒を固定し、それで一日過ごしてみる。はるなちゃんの障害の原因が出産時にあることを知り、このクラスでは赤ちゃんが生まれることの大変さについても学んでいく。その一つのきっかけになったのが、絵本 『さっちゃんのまほうのて』 で、やがてこの絵本の作者とクラスの子どもたちとの交流に発展していく。
 こうしたクラスが成立していくには、何よりも担任の並々ならぬ力量と情熱が求められるはずだが、本の中でははるなちゃんと子どもたちがまさに主人公として躍動しており、さわやかな感動をよぶ。

   (ふじた・のぼる=児童文学評論家) 東京新聞2000.09.24
テキストファイル化武像聡子