子どもの本

藤田のぼる

           
         
         
         
         
         
         
    
ファンタジーということばは、今やすっかり定着した感があるが、幻想的な素材、方法をすべてのことばでくくるには無理がある。
ファンタジーは幻想的な素材を近代小説の作法で描いたものといえるが、よりアミニズムな心性に根差したメルヘン的な作品も一方にはあるのだ。そしてファンタジーとメルヘンとの中間的な作品、メルヘンファンタジーと呼びたいような作品の系列がある。宮沢賢治の作品などはそういう呼ばれ方が一番ぴったりくる感じがするし、あまんきみこ、安房直子といった日本の良質の「ファンタジー」を代表する作品には、実はこうしたメルヘンファンタジー的な味わいの作品が多い。
今回紹介する二冊も、日本人の心の原風景に直接訴えかけてくるような、不思議さと懐かしさをあわせもっている。

『不思議の風ふく島』(竹内もと代・作、ささめやゆき・絵、小峰書店、1400円)
サブタイトルに「飯田さんの運転日誌」とあり、帯に「フシギなことに出会うバス」とあったので、あまんきみこの『車のいろは空のいろ』(こちらはタクシーの運転手の松井さんの話)のバス版かなとおもったら、ある意味ではそうでもあるが、かなり違う持ち味でもあった。違っているところの第一は、作品の舞台が特定され、それが重要な意味を持っているところ。飯田さんのバスは、フェリーの時間に合わせて、西回り、東回りが四回ずつ運転される。島のさまざまなドラマがこのバスを舞台に展開し、それは飯田さん自身も例外ではない。六話から成るが、僕が好きだったのは第四話の「のずき」。飯田さんの奥さんや引退した漁師の野沢のじいちゃんが重要な役を担う、ちょっとぞくっとする話だった。ささめやゆきの絵が作品世界にぴったり。

『虹の谷のスーパーマーケット』(池川恵子・作、村上勉・絵、ひくまの出版、1200円)
こちらは前作『海辺のボタン工場』でデビューしたばかりの新人の第二作。山の茶店を一人で切り盛りするおばあさん、そこに食料品を配達するお兄さん、そしておばあさんの店に一人でやってくる見知らぬ男の子…と並べば、いかにも型通りの人物配置という印象だが、茶店は村を沈めて造ったダムの展望台にあり、おばあさんの配達依頼はファクスでというように、作品の背景にある時間と空間には、なかなかの深みと現代性がある。
この作品の舞台は、モデルになっている村があるのだろうか。どこかにあるようで、どこにもないのかもしれない。しかし、月並みな言い方ながら、この村の風景や登場人物の心の温かさは、読者の心に確かなあかりをともしてくれるだろう。2001年(平成13年)3月25日(日曜日)
テキストファイル化 矢可部尚実