絵本ってオモシロイ

13.色指定の絵本
福武書店「子どもの本通信」第15号 1990.10.20

           
         
         
         
         
         
         
     

 すいかの大好きな男の子がいました。『ねらってる ねらってる』(東君平文/杉浦範茂絵/大日本図書)の絵本の中ですいかを食べています。男の子は気づいていませんが、実は、男の子がすいかを食べおわるのをじっと待っているものがいました。ハエです。けれど、ハエは自分がねらわれているなんて、ちっとも気づいていません。ハエをねらっているのはハエトリグモ。テーブルの陰にひそんでじーっと様子をうかがっています。かくいうハエトリグモだって、木の上のすずめにねらわれているのも知らずに……。
 この絵本をみるたび、新鮮な感動を味わいます。まず絵。場面がページ毎にほぼ正方形に描かれ、つかわれている色は特色の三色。(特色とは通常の印刷に使う基準四色以外の色を特に指定するインクのこと)その特色もベタを重ねあわせるだけで色の変化をだしています。重なりあった色が絵の奥行きを生み、紙の白さがさわやかな夏の印象と画面の動きを生み出しています。この技法は木版画の多色刷りと似ていて、あらかじめ結果を頭の中で想像、合成して色や形を決めるのです。
 すいかを食べ始めてから男の子が画面に登場するのはたった3ページ。(他に帽子が1ページ、片足だけが1ページ登場しますが)読者はハエやハエトリグモやスズメの目の高さで画面に表れない男の子を見つめることになります。さて、男の子がすいかの皮をどうするか決めた後、がっかりしたハエとハエトリグモとスズメは立ち去ります。けれどももっとがっかりしたのは納屋の陰にかくれていた野良猫くろべえです。くろべえはすいかにとまったハエをとったハエトリグモをつかまえたスズメを食べてやろうと待ち構えていたのでした。ドラマが一旦終わったと見せ掛けておいて一番最後に一番大きなドラマがのこされていたことが最後にやっとわかります。その後の清涼感と静けさは、スキのない画面構成と無駄のない文章から生まれてくるものです。
 同じく色指定で作った絵本『ヤッホー!グーグー』(村上康成作/福武書店)は基準色で指定してあります。かいじゅうグーグーと山の動物たちが雲をみていると…。色指定ならではの透明感のある色彩が美しく、また動物たちの無邪気さと楽しさがよく表れています。
 他にも色指定の絵本はありますが、これは作り手の想像力の集大成であると同時に、印刷所の職人芸が生み出す作品でもあるのです。昨今印刷製本の人手不足が深刻になり、ついこのあいだもある印刷所から、これからは色指定の本は難しくなるだろうなあというお話をききました。印刷の面白さを駆使したこの技法、人手不足の荒波に敗せず生き残ってほしいと願う今日この頃です。(米田佳代子
テキストファイル化富田真珠子