コドモの切り札

(28)

売れると悪いか?

甲木善久
           
         
         
         
         
         
         
     
 世の中を見渡すと、「売れる」ってことと「良い」ってことは、案外、切り離して考えられているようである。それは、江戸時代からこっち、なんとなーく肌に染みついちゃっている「お金は汚いものだ」という感覚のためか、あるいは、時々暴露される不祥事によって育まれた大資本に対する不信感のせいなのかは知らないが、ともかく、そうした風潮があることは確かだろう。
 さて、こうした風潮、相手が子ども絡みの文化となると、さらに過剰に出てくるのは困ったもんである。たまごっちしかり、プリクラしかり。ファミコンも、マンガも、売れたとなると悪役にされたのは、周知の事実。
 んで、子どもの本の世界でも、当然のように、この闇は強いのだ。だから、子どもに読書を勧める良識ある大人から、「アンパンマン」も、「ノン夕ン」も、目の敵にされた。『はれときどきブ夕』(岩崎書店)も「ズッコケ三人組」シリーズ(ボプラ社)も、眉をひそめて語られるのが常だった。でもね。
 子供が本を読まないと嘆きながら、その一方で読まれている本を認めないのは、変じゃありません? これって、読者である大多数の子供たちをものすごく馬鹿にしている気がするんだけど。
 というわけで、僕の関係している子どもの本の専門誌「ぱろる」6号(パロル舎)では、こうした変な現象に真っ向から立ちむかうべく、売れればエライ!?」という特集を組みました。「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんや、「はれブタ」の矢玉四郎さん、「ズッコケ」の那須正幹さんのエッセイ、また、「ノン夕ン」の担当編集者や、『ソフィーの世界』(NHK出版)の訳者・池田香代子さんによる制作裏話など、内容は盛りだくさん。自分の雑誌の紹介で恐縮だけど、どれも読みごたえのある話ばっかりよ!
西日本新聞1997.04.13