コドモの切り札

(31)

−記号消費の時代−

甲木善久
           
         
         
         
         
         
         
         
     
 男二人が意味もなく野山を駆け回り、大抵は自ら招き入れたような危機に出会って「ファイト!一発」と叫ぶ、例の、あのCMは皆さん良くご存知だろうが、では、「タウリン1000mg」がどのような効果を及ぼすのか?について、ご存知の方は少なかろう。
 いや、タウリンに限らず、塩酸ブロムヘキシンだって、塩化リゾチウムだって、インドメタシンだって同じことである。
 もちろん、これらが何らかの薬剤の固有名詞であることくらいは想像がつく。けれど、それが体のどの部位に作用し、また、どのような薬理効果を上げるものなのかは、少なくともCMを見ているだけではわからない。
 視聴者に伝えられるのはほーれ、タウリンだぞ、タウリンだぞ。しかも1000mgだぞ。ファイト!一発になっちゃうんだぞォ。効くんだぞ、効くんだぞウリウリウリってなイメージだけで、これはもう、呪文みたいなものである(とはいえプラシーボ効果からいけば、これはこれで意味のあることなんだけどね)
 言葉と意味と強く結びついていた一昔前には、同じようにイメージを伝えるにしても、「ハッキリ」とか「ケロリン」とか、もっとわかりやすかった。それが現在では、むしろ意味不明の言葉の方がインパクトを与え、説得力を持ってしまうのだ。
 さて、こうしたことをつらつらと考えてしまったのは、小学生相手のゲームポケモンに、前述した薬剤の名称がアイテムの名前として登場してくるからである。それらのゲーム上での設定は、CMで流布されたイメージと、何となくわかる気がする相関関係を持ち、しかも、それをポケモンに使うことを「ドーピング」と称するのだ!
 これはたぶん、良いとか悪いとかいう問題ではない。私たちが作り上げてしまったこうした時代の風潮を、子供達もまた同時に呼吸しているという現実に過ぎないのだ。
西日本新聞1997.05.04